組織に属していると『自分ひとりがどうなろうと関係ない』は良く感じることかもしれません。
もし組織を一人の人間だと考えたらあなたは一個の細胞にあたるのでしょうか。
しかしがんもたった一個の細胞から始まることを知っていましたか?
マンモスの絶滅理由に関する新説がおもしろい
最近のニュースでシベリアの凍土からマンモスの死骸がほぼ原形を留めた形で発見され、ハーバード大学の研究室でDNAの構造を分析する事によりそのDNAを復元させることに成功したという事でした。数千年前に絶滅したケナガマンモスを2年以内に蘇らせるプロジェクトが始まったという何かロマンを感じさせるニュースでした。
マンモスが地球上からその雄大な姿を消した事にはこれまで様々な学者により研究され学説が発表されています。
- 地球の気候変動による植生の変化で食料が欠乏。
- 人類による狩猟。
- 人類が連れて来た家畜による伝染病。
- 隕石の落下による氷河期の到来。
何れの学説も確実な論拠や証拠があるわけではなく未だに百花繚乱の如く学説が飛び交っている状況です。学説の一つとして絶滅は外的要因でなくマンモス自身の内的要因、謂わば自己崩壊的に絶滅に至ったという多少荒唐無稽な説があります。
マンモスは強みを磨きすぎた結果死んだ説
ここで感の鋭い読者、想像力の逞しい方は表題のマンモスの絶滅と大企業病との多少無理筋の感がある関連性に気が付かれるでしょう。
大企業病は一般的に大企業が故の危険な因子を内部に抱え込み自己崩壊の兆しを持った状態の事を言い表しています。マンモスの自己崩壊的な絶滅と大企業病の関連を理解するためにちょっと怪しげな新説に耳を傾けてみましょう。
あらゆる生物には当然の事ながら強い生存本能と外敵から身を護る自己防御本能があります。それぞれの生物が持つ特別な能力を無意識のうちに強力に作動させながら自己防衛しその生存を支えて来ました。
カメレオンは外敵から身を護る為に自身の体をあたかも高解像度を誇る日本製カメラのように回りの木々の葉の色等に鮮明に写し変えてその身を隠す、スカンクは外的に向かって突然悪臭を体内から放ち、一瞬外的がひるんだ隙に逃れる。
人間の祖先は2足歩行と優れた脳の働きにより手を使い武器を生み出し使用する事により生存を果たして来た。そしてマンモスはその巨大な体と牙が彼の持つ最大の能力又武器として自己防衛と生存を支えて来たのです。
しかし自然の恵みや資源は常に有限で枯渇していきます。そんな厳しい自然環境の中で生き物は苛烈な生き残りをかけ、その生存本能の更なる強化と進化を強いられる事になります。
新説はここである原則を見出します。あらゆる生物はその苛烈な生存競争の生き残りをかけ自己防衛本能を強化する為に彼らの持つ最大の能力を無意識に又補正する事もなく益々研ぎ澄ましグレードアップして行く事になるのです。
人類はその頭脳の働きで道具や武器を進化させ狩猟と作物を収穫する事により地球上のあらゆる生物の王として君臨する事になります。マンモスはその巨体と鋭利な牙を更に強大化、先鋭化する事によって敵を完膚なきまでに粉砕して行きました。
新説はここにマンモス死滅の原因を見出したのです。生物の持っている生存本能の飽くなき追及はある限界点を超えると能力はむしろ反作用して生存のリスクを高めると同時に地球上の生態系を徐々に崩しやがてその生物は死に絶えてしまうと言うのです。
強みを磨きすぎた結果自壊するのは人間も同じ
ちょっと分かり難いですね。しかしこれは人間の能力の膨大な進化を考えると何か重大な示唆を含んでいるように思えます。食を満たすため、生きる為の単なる狩猟の道具が人類を又自分自身を死に至らしめる鋭利な刃物となりやがて火薬が発明され鉄砲が爆弾となり遂には大量破壊兵器としての核兵器が開発され多くの人命を殺生し環境を破壊して行きます。
一人の狂気の独裁者がボタン一つで又は単なる誤動作によって人類そのものの自己崩壊、死滅に繋がる限界点を超え、戻れることの出来ない道を人類自らが生み出してしまいました。
そして同様にマンモスもその自己防衛能力を無意識のうちに拡大させ巨大化しやがてその限界点を超えてしまいます。限界点を超える以前のサイズを持ったマンモスは敵が襲ってきても機敏に反応し効率よく体を動かし敵を撃退する事が出来ました。
しかし限界点を超える程巨大化したマンモスは足元で敵に絡みつかれ鮮血がほとばしる程までに引き千切られているにもかかわらず、その絶望的な状況をセンサー機能の感度が衰えた脳神経が認知できないか誤作動を起こしてしまいます。
敵がすでに体の中央部まで絡みつき鮮血が中央部まで達した時に漸くセンサー機能が反応して反撃を試みるがその巨大なサイズが体の自由な動きを封じ時すでに遅く遂には大きな音を立てて崩れ落ちてしまいます。そしてこれがマンモスの死と絶滅に至る道となっていきます。
まさに荒唐無稽とも思えるマンモス絶滅の新説は企業が抱える大企業病が無意識な自己保存本能として巨大化し機能不全に陥った組織体と考えると大変現実味を帯びた話しとして認識されるように思われます。
マンモスと大企業は似ている
大企業は組織そのものが無意識のうちに無限の増殖を図り人々の内面的な変化をもたらします。先端即ち現場で起きている危機的現実、それは足元から赤い血が少しずつ這い上がってきているのですが頭脳を司る中枢機能がその感度を失い先端即ち現場の痛み感じ取れないのです。
中枢機能から発すべき指令も神経系統や血流の損傷で緩慢となり全く機能しない。赤い血がやがて生命線である中央部に達した時に神経系統や血流が漸く作動し脳神経を刺激させ巨体を動かそうとするが全ての機能が巨大化し麻痺した組織は容易に動かない。そして誰もが予期しなかった結末を迎えます。突然巨木が音を立てて崩れ落ちるように大企業に侵された企業や組織は崩壊していきます。
大企業病におかされている5つの兆し
マンモスは絶滅してしまいましたが企業という組織体は顧客、取引先、株主、何よりも生活の糧を得ている組織体の構成員である従業員に対する社会的責務を負っているが故に巨木が音を立てて崩壊しましたなんて呑気な事は言ってはいられません。
大企業病のあらゆる因子を分析し事前にその崩壊を食い止める必要があります。すべての病には兆しがあり、その兆しから起こり得る症状を分析し必要な処置を行います。ある時は投薬、休養、リハビリ等の対処療法又ある時はその病魔の根本原因を手術で削除します。大企業病の癌が企業の指令系統を司る頭脳即ち一部役員の無能であると判断されれば即座に切り取らなければなりません。
然し大企業病の一番の重大な問題は一部幹部の無能だけに問題があるのではなく兆しがあるにもかかわらず無自覚のうちにそれがまるで本能であるかの如く組織全体、または組織の構成員までに病魔が進行して行く事にあります。兆しは組織全体に蔓延しているのです。病魔の兆しは例えば。
A)会議
●会議がやたら多い。参加者がやたら多い。
●事前に会議の目的、議題、時間が示されない
●上司の意味不明の挨拶がやたら長い。
●会議はいつも誰が何を何時までに実施するという結論がない。(4WHの不在、What、Why, Where, When, and How)
●プレゼン資料を大量に綺麗に作る事に膨大な時間をかける(こんな資料は誰も見ないが自己満足)
●会議の結末は社長によるマーもう少し検討しようという挨拶。
●稟議書のハンコの数がやたら多い(赤信号みんなで渡れば怖くない)
●顧客や現場の痛みはそっちのけで資料の詳細や細かなルールの
議論に終始する。
B)組織の変貌
●実行部隊に対する管理機構が強化される。(何とか室という部署がやたら増殖する)
●管理機構でMBA上がりのコンサルが幅を利かせる(何とか室に箔をつけたがる)
●やたらと英語のビジネス用語を自慢げ使い話を意図的に分かり難くする。
●管理機構への報告義務が強化され膨大な資料作りに追われる。
●管理機構が虎の威を借りて葵のご紋章を振りかざす。(忖度の花盛りとなる)
●幹部の前線視察が頻繁になり幹部おもてなしが重要な仕事になる(専門のおもてなし儀典係が重用されたりする)
C)人心の変化
●ルール化、マニュアル化による人心の萎縮、矮小化。
●安定志向、停滞、リスクを取らない, 打たれない杭になる。
●人事異動の季節に不思議なくらい高揚する、不安感が募る
●近くの居酒屋が社員でいつも満員、愚痴のオンパレードとなる。
●一日の小さな作業の完了の連続が永遠に継続するという幻想
●変化を恐れる。そして変化させる事柄や変化を唱える人を理由
もなく攻撃する。裏技を使って貶め入れる。
D)幹部の独善、保守化、権力争い、そして保身
●巨大組織特有の幹部の固定化、長期化、人事の硬直化
●これにより幹部の独善と保守化、権力争いと保身が蔓延化する。
●幹部の保守化と保身は変化を求めない、権力争いで変化への嗅 覚が鈍る。無駄な投資と見かけだけの本社ビルの改築等に手を出す。
●各事務所に社長の写真を正面玄関に掲げさせる。
●自身のサクセスストーリに執着する
●幹部が権力を使って取引先に対応するが結果的には誘惑に引きずり込まれて行きズブズブの関係となる。
E)システムの硬直化
●品質管理システムを始めとしたシステムが環境の変化に対応せず機能しない。(システムの金属疲労を放置)
●業務システム、マニュアル等の変更は単なる些細な文字の使い方等に固執し本質を外れまくる。
●経営数値は幹部を忖度した数値として計上。幹部の虎の威を借り論理性や正しい分析を無視して押し付ける。(実現性のないターゲットマネージメントを際限もなく継続する)
いかがでしたか。皆さんの会社又は組織でこんな光景を見た事はないでしょうか。このうち半数近くで心当たりがある、見た事や経験していると答えた皆さんの所属している組織や会社はもう大企業病の紛れもない兆候があり、ほぼマンモスの絶滅のように末期症状に近いものであると認識すべきです。平成の時代は企業や団体の凋落、不祥事、隠蔽体質などがメディアに取り上げられてきました。東芝、三菱自動車、神戸製鋼所,又官僚機構の財務省、防衛省、厚生省等枚挙の暇もありません。
メディアのカメラの放列を前にして白髪頭のトップがしどろもどろに謝罪会見を繰り返す姿を目の当たりして大企業病に侵された成れの果てを見る思いでした。
大企業病はこんな白髪頭の無能なトップを手術で摘出すれば明日から明るい未来が開かれるのでしょうか。勿論有能なトップによって少なくとも進むべき道に一部軌道修正すする事は可能ですが、すでに体脂肪と皮下脂肪の塊のように巨大化した組織体内の個々の臓器の機能低下または運動機能の筋肉の劣化更にそれらを効率的につなぐ神経系統の乱れ、血流の損傷等の重大な欠陥を持った組織体は単に頭を挿げ替えても回復不可能な瀕死の状態にあるのです。瀕死の状態から抜け出す道はあるのでしょうか。
大企業病への処方箋とは
それがあるのです。マンモス同様に無意識的に肥大化した体脂肪、皮下脂肪を一部機能の細胞を意識的に活性化させる事により取り除き替わりに筋力を強化させていくこと。つまりまずは皮下脂肪化した個々の細胞そのものの意識改革をすることにあります。
肥大化し改善不能になった管理機構や企画部門等の関節機能ではなく、未だ一部の細胞がかろうじて活動している所謂稼ぐ実働組織、機能(事業部、営業部、製造部)を優先的に何とかもう一度活性化する事が病魔から抜け出る第一歩となります。
手や足腰の筋肉(現場)を鍛錬し強化する事により脳梗塞で脳細胞と中枢神経の損傷を負った人が懸命にリハビリをした結果機能が回復し通常の生活が可能となるまでに元気を取り戻したという話を聞きます。超スーパースターであった長嶋茂雄が脳梗塞で倒れた後に懸命なリハビリを行い多くのファンの前で又元気な姿を見せるまでに回復しました。脳細胞と中枢神経は手足の筋力の強化される事により副作用として神経系統と血流の流れが循環され遂には脳機能の活性化に繋がり又その事により足腰の筋力が更に強化され体全体が活性化されていきます。
そうです脳神経が侵された組織であっても組織としての最重要機能の中に死滅しないでかろうじて存在し活動を続けている細胞を刺激、活性化させる事により派生的に神経系統、血流の流れ(連携、Communication)が自然発生的に循環しやがて脳機能への刺激となって組織が蘇る事になるのです。
重要機能の細胞の刺激、活性化とはまずは大胆な意識改革により大企業病の兆しを素早く認知してその元となる原因を突き止め安定的な停滞(ぬるま湯)から脱却し、外的変化への嗅覚を研ぎ澄まし、そして決断と行動への強い覚悟を持つという事でしょう。一部の機能の細胞群の驚くべき変化が他の細胞群へ好影響を与え、管理機能や企画機能など横へ横へと神経系統と血流が還流し死滅しかかっている他機能の細胞の活性化を促し、組織としての活動に強い連携が生まれ決断力と俊敏性を増していきます。そしてこの流れがやがて上下への流れと繋がって行きます。
大企業病は脳神経つまりトップや幹部だけの病気でなく機能を動かしている個々の細胞そのものが大企業は何があっても決して崩壊しないという無意識の傲慢そして弛緩に満ちた感染病に侵されているか、あるいはその細胞の一部が死滅している病気なのです。無意識に大企業病に侵された細胞そのものの感染源を取り除かなければマンモスの絶滅を防ぐ事は出来ないのです。
感染の兆し素早くつかむ、長い無意識な安定的停滞(ぬるま湯)から脱却する。変化への嗅覚を研ぎ澄ます。そして決断と行動への強い意志。この意識改革が個々の細胞の活性化を刺激し、神経系統や血流の好循環を促し、体脂肪率10%台の筋肉質を持った健康体に生まれ変わります。これにより個々の細胞が冒されている感染病の源が取り除かれ、大企業病の病魔から脱却出来る事になるのでしょう。
三原一郎