ある会社の1コマ
経営不振に陥り、経営層の混乱と社員に停滞感が広がっているとある一流企業の事業部門で佐野さん、宇野さん、狩野さん、そして大野さんが机を並べて仕事しています。
佐野さんは少し理屈っぽい所がありますが指示された仕事はきっちりと遅滞なくこなしていきます。会社の状態を不安には思っているが会社がつぶれる事はないだろうと信じて目の前の仕事を日常的にこなしています。
宇野さんは課長から指示を受けると少し考えてから上司が思いもつかないアイディアを提供しますが仕事を順序だてて進める事や人との連携も苦手で孤立しがちです。アイディアを出すが経営層に却下されるため少しやる気を失っています。
狩野さんは感性と創造性を持ち思いついたアイディアをしっかりと工程表に落とし込み回りの人も巻き込みながら共同作業を進めて目標を実現する力を持っています。会社の現状を様々な角度から分析し改善案を経営層に提案し、同僚や部下も巻き込み何とかしようと奮闘しています。
もう一人課内に特に際立った能力もなく目立たない大野さんがいますが残念ながら上司の評価は必ずしも芳しくありません。
あなたはどのタイプ?
もうお分かりですね。
そうです佐野さんは左脳型タイプ、宇野さんは右脳型、そして狩野さんは右左可能なハイブリット型、最後に大野さんは両方の特性も持ち合わせていないどっちつかずのOh No タイプといえます。
(読者に大野さんがおられるようでしたら大変申し訳ありませんがこれはジョークを言う事でご勘弁願います。しかし大野さんも一方に偏っていないという事は裏を返せば狩野さんになり得るかもしれません。大野さんの名誉のために敢えて付け加えておきます)
それぞれの人の特徴と組織の在り方
これは右脳と左脳の働きとその特徴についてのちょっとした小話ですが、左脳型、右脳型、ハイブリット型等に区分けし人の特徴と組織の在り方等について物語を展開して行きます。
左脳と右脳の働きや特徴は一般的に世の中で言われているのは:
- 左脳型:論理、統制、ディジタル、日常性、プロセス重視
- 右脳型:創造、自由、アナログ、非日常性、アイディア重視
という事になりますがこれにはコインの裏表があり、良い面と弱点があります。左脳型は論理に基きしっかりと日常的にプロセスをこなし物事を完遂させる事が出来る一方、自信過剰、頑固、変化を読めない、敢えて求めない、創造的なチャレンジ精神に欠けるという弱点があります。
右脳型は人が驚く発想で創造的なアイディアを提供し決断力と素早い行動力がある一方、論理的な説明能力に欠ける、プロセスに無頓着、継続性に欠け朝令暮改、回りの人と協調する事が出来ない等の致命的な弱点を内在しています。
右脳型の典型が今世間を騒がしているあの第45代アメリカ大統領のドナルドトランプ。
Make America great again のスローガンを旗印にメキシコからの移民をアメリカに流入させない壁を作る、環境保護を訴えるパリ協定からの離脱等我々が思いもつかなかった政策を次々と打ち出してきましたが、コロナ感染対策で右脳的な思いつき、非科学的発言や又意に沿わないスタッフを解任し締め出す等右脳型タイプのリーダーが持つ致命的な弱点をさらけ出し今や大統領の座が風前の灯となり弾劾裁判にかけられる状況に陥っています。
日本の右脳型の代表選手は謂わずと知れた超スーパーヒーロー、かの有名な織田信長でしょう。
堺の鉄砲の威力にいち早く気付きその戦略的な活用で当時無敵を誇った武田の騎馬軍団を打ち滅ぼし、又領地である岐阜の城下町を開放して楽市楽座を開設する事により経済を活性化し、宣教師のルイズフロイスをも感嘆させた壮麗な安土城を築城するなど数多の歴史上の日本のリーダーとしては桁違いの創造性と行動力を持ち合わせていました。
しかし信長も又右脳型の致命的弱点の呪縛にはまり部下明智光秀の反乱により非業の死を遂げています。
一方左脳型のリーダーは独創的な発想で強力なリーダーシップを発揮しその発信力で組織を動かす力がない為に(何やら日本のリーダーの典型を見ているような気がしますが)自ずと組織の力を活用して組織運営のために有能な官僚やスタッフを使って制度作りやルールの策定にその力を注ぐ事になります。
左脳型リーダーの弱点はむしろその組織や制度そのものに盲点がある事の認識に欠けるという事にあります。左脳型の利点である理論武装で精緻に構築した組織と詳細に作り上げた制度やルールそのものがリーダーの弱点に助長され、寧ろ左脳的に構築された組織そのものの致命的弱点が起因となって組織が音を立てて崩壊して行きます。
日本の歴史上最大の組織の崩壊は江戸幕府の壊滅そして明治維新の誕生、軍閥政府主導の大日本帝国の敗北。そして戦後のマッカーサーによる日本の統治と言えるでしょう。
江戸幕府は開闢の祖である徳川家康以降、お家大事とばかり組織の延命策を画した左脳型歴代将軍により新たな統治機構や制度を生み出しほぼ300年の間継続的かつ巧妙なプロセス、例えば参勤交代や鎖国、苛烈な身分制度で幕府権力の護持を図り、そしてその事自体が当たり前の日常として人々の心に植え付けられて来ました。
長きに渡る安穏の眠りと内部崩壊にと留めを刺したのはベリー来航、一部右脳型幕末の志士達でした。
又大日本帝国は明治政府誕生の立役者となった右脳型タイプの先人である、坂本龍馬、西郷隆盛、大久保利通、そして伊藤博文等が非業の死を遂げた後、山形有朋、桂太郎等組織と規律を重んじる左脳型タイプの指導者が権力を握り、規律で固められた制度設計を基礎に如何に一部組織を維持するかのみに血道を上げた事により一握りの左脳的な軍部エリート組織を生み出し組織が形骸化、傲慢の極みとなり、人々の心に目を向けず暴走して行きました。
その空気感がむしろ日本という国民を含む組織全体が無意識のうちに受け入れ日常化し、結果として組織そのもの日本国全体が行きつくところまで転げ落ちてしまったと言えるかもしれません。
激動時代の組織、安定時代の組織
世の中の激動期には変化を先取りし、世界的な視野に立ち、人々の求める事を持前の感性でつかみ取る事の出来る右脳型のリーダーが求められますが、
世の中が落ち着いて来ると左脳型と一部多少の創造性を持ったハイブリットの左脳的でありながら部分的右脳型の人々によってインフラの構築、制度やルールが策定されます。
その後さらに安定期が続くといよいよ優秀なバリバリの左脳型官僚や会社組織における管理スタッフの出番となり、制度を細分化し、組織と規律の更なる固定化を維持する為に彼らは真面目に日常的に頑張り続けます。
しかしながら制度や規則も実は生き物と同じで時代の変化に合致しなければ錆びついて金属疲労し老朽化するものですが、優秀な左脳型タイプの官僚企画管理スタッフは業務そのものが日的化され最大の存在価値であるため世の中の変化、政界情勢の進歩に気がつかない、いや寧ろ意図的に変化を求める事を無意識的に望んでいないのです。
こうして時代の変化に対応できなかった組織は崩壊への道にまっしぐらに進んでいきます。最近の安倍政権、そして組織そのものを継承した現在の菅政権も実はこの重い病を患っているように思えます
安定的な停滞に甘んじ組織や制度が疲弊、老朽化し崩壊一歩手前の組織には変化を先取りし、果断に決断を下す右脳的創造力豊かな強烈な個性を持つリーダーの出現を待つ事だけが我々にお与えられた選択肢なのでしょうか。 しかし強烈なリーダーは劇薬としての効果があるものの一方で別の病魔を生み出す副作用もあるのです。(ナチスドイツのヒトラー、毛沢東、スターリン、最近のトランプ)そんなリーダーの出現を待つ事なく、組織自身が内在する生き延びる生命力、力強い細胞分裂を最大限に活用し組織を再度活性化する事も可能であるはずです。天は自ら助くる者を助く。の精神です。
組織のバランス
ここで再度右脳型、左脳型、ハイブリット型人材を如何に活用するかが重要になって来ます。組織や事業はある目標に向かって実務や作業を基本的に継続的に遂行し目的を達成し又新たな目標に向かって活動します。
従って組織のほぼ60%は職務遂行者となります。
職務遂行者は当然ながら業務手順とルール、規律を守り業務を継続的に遂行できる左脳型の人材で構成される必要があります。
20%の中間管理者は業務遂行者の日常を管理、監督、励ましながら常にその状況を観察し必要な改善を指示して行きます。作業環境、業務遂行者の変化等に常に配慮し変化に気付き改善を加える感性も必要です。業務手順やルールを熟知し工程表に落とし込む左脳的能力と、常に小さな改善を行う一部の右脳的なセンスが求められます。
15%の所謂スタッフ部門、企画部門、管理部門、特別プロジェクトチーム又は社長室に所属する人達は基本的に世の中の変化、消費者動向、世界情勢に関心を持ち又他部門を能動的に動かす能力等右脳的な創造性、や感度、熱意をもって人を動かせる力ハイブリット型が求められます。
残りの5%が経営層となります。経営トップはその時の時代の状況や背景に応じて、安定期にはより左脳的な能力を持ち、激動期にはより右脳的センスを持ち合わせている人が経営トップの座に就く傾向にあります。
従って5%の経営陣には安定期に社長の座についた左脳的トップに対しより右脳的な創造力を持ち変化を先取りし強い決断力でトップ対して提案と時には体を張った直言が出来る側近を配置する事が重要です。
安定期にトップにつくような左脳型人間は基本的に過剰な自尊心を持ち時に傲慢に陥り易く、何事も自分で細部にわたってチェックし決定を下したがる傾向にあります。こんなタイプのトップは一歩離れたところから自身を顧みて、内部の問題から敢えて離れて外の空気を吸ってから部下に任せる度量が必要です。
激動期にトップについた右脳型の人にありがちな傾向は一度、人の思いつかないアイディアで大成功を収めるがその後アイディアと戦略を脈絡もなく、論理的な説明もなく乱発します。
又気まぐれにそして朝礼暮改的に真逆のアイディアを出したりします。当然アイディアや戦略はそれだけで存在するわけでなく遂行し、実行部隊で実行可能で実現可能でなければなりません。その為には数々のアイディアが理論的に実行可能かどうかの検討と取捨選択の後プロセスに落とし込む必要があります。
右脳的なトップは基本的に細かい作業工程や日程管理等には興味もなく口も出さないのです。
そんなトップに対しては、左脳的な論理性、プロセス、継続性を持った側近が組織を縦断的、横断的に動かせる部門を使ってトップの代行者として大枠の方向性と指示に従って遂行していくことが重要です。ここで忘れてはならない事は右脳的トップの素晴らしいアイディアを左脳型側近及び管理者によって具体的に落とし込まれた制度やプロセスは長期化すると必ず金属疲労し老朽化し、これが人々の気のゆるみ停滞感を生み出すと言う事を常に強く認識する事です。
現代のハイブリッド組織
ここで右脳的なセンスとプロセスも理解可能なハイブリット型の企画部門、プロジェクトチーム又は社長室等のスタッフ部門の出番で、感度の良いアンテナを高く張って社会の変化、組織の硬直化、組織の緊張感のゆるみ、人々に蔓延する停滞感等を感知し経営層と緊密に連携して行かなければなりません。
右脳、左脳のハイブリット型組織の利点を最大限に活用しトップと共に社内の停滞感を払拭する創造的アイディアで人々を活性化させチームの一体感を作り出し人々のやる気に灯を付ける事が組織の命運を分ける事になるのです。
小話から始まった物語の最後は又崩壊寸前の会社で働く4名の方にもう一度登場してもらいます。
宇野さん、佐野さん、狩野さん、そして狩野さんになる素養を持った大野さんはその強みと弱点を自身で熟知しながら有機的に能動的に活動しそして強い連携が取れたハイブリット型混成チームを形成、組織全体を機動的に動かす中心人物にいつの間にか成長し生きる力を漲らせながら組織の停滞と崩壊を防ぐ大きな戦力となって組織の再生に貢献を果たす事になりました。
2021年1月20日
コロナ禍の中で
三原一郎