組織を鼓舞して熱量を上げたい・・・。思うのは簡単ですが実現できている人はほとんど見たことがありません。
今回は三原さんがヨーロッパやアジアでのマネジメントとして世界中のスタッフを鼓舞した武田信玄の話をご紹介します。
外国人に大人気の武田信玄
外国人が日本語の漢字、特に4文字熟語をつけたT-シャツを自慢げに着て歩いているのをよく見かけます。もちろんその意味を理解している外国人はほとんどいないと思われますが漢字そのものがファッションでかっこいいと感じられているのでしょう。
昨今日本のアニメブームやゲームがきっかけとなり日本の歴史や文化が外国人の間でポピュラーになってきました。特に侍とか戦国時代の武将に関する物語やグッツに人気が高まっているようです。私が海外でビジネスを展開している時外国人の協力を得て気持ちよく仕事して貰うためにあらゆる手段を使ってコミュニケーションを図ってきましたがその中でも最も有効で人気の高かったのが武田信玄の風林火山の話でした。
古今東西を問わず強くて、人望の高い武将はとても人気があるのです。どんな風に英語で語り掛け、外国人スタッフがどんな反応を示したかは後程徐々に話しを進める事にします。
ヨーロッパ時代に活用した5つのマネジメント
私は電気機器関連企業でロンドンにある欧州本社で事業部長として7年間その後欧州本社副社長として4年間駐在して電気機器の製造販売に携わってきました。私の活動領域は当時欧州にあった4つの工場イギリスのウェールズ、スペインのバルセロナ、ドイツのスツッツガルトそしてロシアからトルコに至る欧州全土にあった販売拠点でした。
工場に対しては当時ロンドンにあった欧州本社の事業部で開発設計された製品を必要な時に必要なだけの数量を製造工場に指示をする。当然の事ながら製造過程では品質基準に沿って且指定されたコストでの製造を管理監督する責務がありました。
その工場で製造された製品の在庫を残さずに販売するために欧州全土にある販売会社を駆け回り販売の指導及びセールスマンを激励し、予定された販売数量を達成する為日々活動していました。
ヨーロッパは言語、文化が混在した多様性のある地域であり、又人々は各々の言語、文化、歴史に過剰な自信と誇りをもっていて、遥か極東の日本から来た我々にとっては中々手ごわい相手であり又扱いにくい存在でした。そのような人々に対し方向性を示し、目標を与え且気持ちよく仕事に挑んで貰う為にあらゆる方法を駆使して対応していました。
1.相手に関心のある話題を提供する。
特にリラックスできる会食の場では相手からの本音を聞き出せるが、この場で最も有効な話題はそれぞれに競争関係にある国のちょっと冗談めかした悪口。例えばフランスとの会食ではイギリスのまずい食事。
France is very proud of foods but Food in UK is very awful, they only have fish and chips.
そしてイギリス人との会食でイタリア人を茶化して
Italian people always take long sleep after lunch, so while Italian guys take sleep and relax, we English try to work hard and to overcome them in our competition.
等と語りあうのです。不思議な事にこんな話題が最も盛り上がってくるのです。
2. 自分は彼らの将来を決定できる重要な人物であると認識させる。
当時私は事業部長として工場の生産数量、各国の販売予定を決定する立場にありました。しかし現在のEUが欧州の各国を取り纏める事は至難の業である様に大変苦労しました。唯一、かつ有効な手段は結局のところ利害、つまりお金でした。
下世話な言葉で言えばニンジンを常に彼らの鼻先にちらつかせながら交渉を進める事。私の指示や経済的サポートで販売量が拡大し売り上げが増加する事により彼らの経費を一定額に抑えれば当然利益が増加し彼らの評価が上あがる。
一方工場の生産量も増加しコストダウンが進み、更に売り易い状態になる好循環を生み出す事を淡々と説明する。当然感情より理論を重んじるヨーロッパの人にはこんな理論的な説得が有効であったが、彼らも人の子であり理屈だけでは十分でなくうごいてくれない。
従って上から目線の指示を避けてOpen mind でJokeも交えながら明るい雰囲気で語り掛けこの人間はいつもサポートしてくれて常に味方である存在だと思わせる。
3. 実務レベル又は現場レベルのスタッフとの緊密な連携
工場の作業者又は各国の販売会社の現場セールスと常に接触し友達になる。販売状況を把握するために各国を巡回していたが、その際はその国のセールスマンと丸一日同行し量販店にセールス活動を行う。
一日一緒に活動しているので時には家庭の話、生まれ育ち、子供の話等のプライベートな話にもなり友達関係を構築できる。この話の輪が彼らの同僚や上司にも広がり次回の会議の話題にもなり会議が順調に運ぶ要因ともなる。
4.会議での演出、裏技
製造販売会社では常に製造側と販売側がある種緊張した対立関係に陥る。販売不振の原因を工場側のコスト高、品質問題、納期遅れ等で販売側が工場を非難する。又反対に工場側は販売不振の原因は販売努力不足、製品に対する認識の欠如等と相手をなじる。
それぞれが相手を非難すると同時にこれが又自己弁護,エックスキュウズの羅列となる。事業部長は全体組織の社長的な存在であり、会議が双方の責任の擦り合い的な状況に陥った場合に組織の長として鼎の軽重が問われる事になる。事は短期的に判断し結論がでる問題ではないが問題の本質を理解した上で会議を仕切る必要がある。
仮に問題の本質は一部地域において短期的に品質問題で売り上げが落ちていると目星をつけた場合つまり製造側の問題である場合。こんな時は販売側と事前調整をした上で会議の席上では逆に販売側の努力不足を責め立てる。工場側はおそらく脛に傷がある事をすでに内心察知している状況で事業部長が敢えて工場の味方になってくれたと思い感謝する事になる。
その後工場側と膝を突き合わせじっくりと品質問題について分析し対策を練り、改めて販売側に通知し量販店における対策につなげ、かつ販売の拡大を目指す。予め販売側には今回は一旦工場に花を持たしたが必ず改善策を出させるから心配しないでくれと連絡しておく。根回しと裏技を使ったのである。販売側に本質的な問題があった場合も同様な根回しと裏技を駆使する。
対立軸にある組織は公式の会議の席上では残念ながら双方に組織としての意地、または沽券のようなものがあり当事者同士では中々折合いがつけられない。中間に位置する事業部長は非常に難しい立ち位置にあるのです。特にヨーロッパという言葉、文化、人種が異なり各々が又自信と過剰な自尊心を持った相手にビジネスを展開していく中ではいわゆるオーナー経営者的な立場でない限りは一刀両断でその場で決着をつける事は至難の業であります。
それぞれの立場を理解し尊重し時には裏技、根回しをしながら時間をかけて相手からの信頼を得ながら解決していく方法がEUでの在り様と同様におそらく唯一無二で且最も有効な手段である様に思います。
5.一体感の醸成(Team building)
リーダーの最も重要な責務は組織から又は人々からの信頼を得る事と同時に組織の一体感の醸成があります。特に多様性に富んだ地域、組織でのTeam building には組織を纏め上げるCommunication skill とそれを支える情熱又はエネルギーが必要です。ここで登場するのが冒頭に触れた武田信玄の風林火山のストーリーです。
工場や各国の販売会社において生産達成記念集会、または販売目標設定のイベントを企画しトップを務めるリーダーは多数の参加者全員の前で刺激的で心に響く演説をぶつ必要に迫られます。演説の内容は明確なのです。方向性(mission)を明確に示し、戦略を述べ(Strategy)揺るがぬ決断を示し(Decision)迅速な行動と勇気(Speedy action)そして困難に立ち向かう情熱と団結(Passion)を訴え全員を鼓舞する。
こんな難しい話を下手な英会話能力で果してできるのか不安に駆られました。巷に溢れる経営に関するhow to 物をそのまま受け売りで語るのが最も簡単ですが薄っぺらな借り物の言葉は決して人の心に響かきません。
考えた末にたどり着いた結果が:外国人に興味を持ってもらえる事、自分が最も得意な領域である事。どんなリーダーも決して思いつかない、使い古した話しでない事。そしてこのストーリーが最も大事なメッセージを聴衆に間接的に示唆している事。
スタンディングオベーションを巻き起こす信玄のエピソード
ここで登場するのが冒頭に述べた武田信玄の風林火山のストーリーです。風林火山の物語はMission, Strategy, Decision, Action, Passion このすべての流れに合致し又臨場感に溢れ且面白く語れそうでした。こんな様に語り始めます。
Once upon a time, Power of The government in Kyoto clearly had become weak and many feudal lord SAMURAI gained power in each region. One of powerful lord located in middle of Japan was SHINGEN TAKEDA. He was the man who was respected by all of people in his country and he won all of war whenever his military troop confronted to his enemies. |
当時の日本はヨーロッパと同様に戦乱の世で京都に位置する天皇を担いで覇権を握りたい多くの武将が各地に割拠していました。甲府盆地を地盤に勢力を拡大していた武田信玄もその一人でした。
信玄は国の安定に努め領民から尊敬され、部下からの信頼も厚くその軍団は堅い結束力をもってどんな戦いにも勇猛果敢に立ち向かっていました。何故信玄は多くの尊敬を受け戦いに勝ち続ける軍団を築く事が出来たのでしょうかと語り掛けます。その答えは非常に明快です。
彼には 国を治め常勝軍団を作るという明確なMissionがあったからです。彼のMissionは彼の軍隊や国の領民の間でこの旗印の元でしっかりと共有されていました。旗印には風林火山と大きく書かれています。戦場においては丘の上に陣を構えた信玄の脇に掲げられ,戦場で戦う兵士が常に見上げる事ができました。戦況が不利な状況に陥った時に兵士は風に揺れ動く御旗を見上げると一気にそのやる気に火が付き敵を押し戻していたのですと演説を進めて行きます。
ここで風林火山の言葉を一字一句説明します。FU means Wind. Lin Forest, Ka Fire そしてZan Moutain.と。実際の風林火山の出典は中国の孫子と言われています。疾き事風の如し、静かなること林の如し、侵略する事火の如し、動かざる事山の如し。
ここで武田信玄には大変申し訳けない事でありますが全体の本筋は守りながら外国人が興味をもって感動する話しに少し創作を入れていきます。Mission は明確です。次は正しい戦略の立案。戦略の立案には冷静な分析が必要です。ここで日本人は特に昔の侍は何等かの重要な事態に遭遇したとき又は勝負に打って出る時は静かな林の中で瞑想し心を沈着冷静に保つ。
そうですClear strategy will be made only by cool and calm mind as if he had meditated deeply in the forest。戦略が林の中での深い瞑想により冷静沈着に分析された後に立案されれば当然強い決断が必要です。一旦決断したことは山のように動かないのです。
Once Shingen made up his mind, his decision will never move this way and that way like mountain. ここで一言One small Jokeをかまします。The famous Mt Fuji never move and come to UK. 大きな決断がなされると軍団は一団となって疾風の如く行動します。
His strong decision always inspired people to make speedy action 疾き事風の如しとなります。最後に残った字句―侵略する事火の如しーはさすがに外国では禁句であり使えそうにありません。ここで一工夫します。Mission, Strategy、Decision, Actionという一連のプロセスは決して誰か他人がやってくれるのでなく、ましてAIの力で成し遂げられるものではありません。
唯一成し遂げられる人がいるとしたらそれは組織に所属している皆さんなのです。そうです皆さんの熱い火のような情熱のみが大きな力となり超えられそうもない偉大な目的を成就できるのです。
Yes, all of your dedication and passion like fire is definitely vital for the future great success And this also makes us the strongest and winning team in the world like Strong SAMURAI Shingen Takeda. |
ここで外国人の聴衆は結構感動して立ち上がりスタンディングオベーションとなります。チームが一丸となって戦う集団に変わった瞬間でした。
欧州での活動を終えて次の仕事が中国や台湾等アジア諸国の人々と繋がりができるようになりましたが風林火山の話は相変わらず人気が高く定番となりました。アメリカではこの話を聞いた人々がいかにもアメリカ人らしくTシャツを作成しチームのユニフォームにしたりゴルフボールに、風林火山の文字を刻印して販売促進用に顧客にお土産として提供したりしていました。
風林火山はすっかり外国人にポピュラーになり又人々の元気を生み出していくストーリ―になっていったのです。