5つの氣

あいつは気が強いから何とかこの困難を乗り切るよ、あいつはよく気が回って営業向きだよね。最近は気が滅入って何もする気になれない。もう気が散って集中できない。なんて皆さんが頻繁に日常会話で使っている(気)という字は本来(氣)と書くのが正解なのです。

米は大地から授けられたエネルギーの源ですが、(気)と書いてしまうとエネルギーを〆てしまいます。そのエネルギーの源である氣の文字を使って人が心や体から発し、醸し出している心の在り方等を表す日本語表現はなんと多い事でしょう。

ポジティブな良い氣もあればネガティブな悪い氣もあります。良い氣が集まれば空気もよくなり景気もよくなりますが、悪い氣が集まった所には人も寄り付きません。

4-5年前に活躍した女子レスリングの浜口京子の親父さんが気合いだ、気合いだと叫んでいましたが純粋培養の体育会系から多少インテリジェンスを交えて氣という言葉について興味深い話をしてみたいと思います。

 

氣の4階段(1危機の始まり、2危機状態,3末期状態、3危機からの脱出)

1. 危機の始まりは氣の能天気状態から始まります。(能天気状態の氣)

呑気、気楽、気休め、気晴らし、気まま、気軽、移り気、素っ気ない、生意気、無邪気、能天気

人生気の向くまま、人には素っ気ないけれど本人はいたって気楽で呑気。自由と気晴らしを求めて移り気にぼんやりとした夢と称した霞を求めて本当に無邪気で能天気に日々を過ごしていきます。

社会的責任を持たない、または持ちたくないちょっと生意気な若者、いつまでも大人になりきれない気軽な独り身のアラサー、アラフォー世代の人たち。貴方たちは実は今危機が始まっている氣の状態にある事を気が付いていないだけなのです。

2. すでに危機の真っただ中に入り込んだ(ハツカネズミ状態の氣)

気兼ねする、気掛かり、気詰り、気後れ、気疲れ、怖気つく、気弱、気重、短気は損氣、気苦労

無邪気で、能天気な人達も時間の経過とその成長過程において少なからず社会との関わりを意識し役割と責任を分担せざるを得ない状態になっていきます。

会社の上司から君はもう係長になったね。そうか結婚して子供もできたのか、これから仲間の為、家族の為一所懸命頑張れよと謂われた途端に肩が張って固まってしまいました。危機の入り口のドア―叩いているのです。仲間や家族の顔色を窺い、いつも気掛かりで気兼ねをして気疲れする毎日です。

会社では上司から指示のあったプロジェクトに関する課題のプレゼンを前にして気詰りして気重になり眠れない日が続きます。当日の朝は氣疲れで頭痛がひどく気弱になっていましたが氣を取り直して上司の前に立ちました。

途端に怖気ついて散々なプレゼンになってしまいました。本当に気苦労が絶えないのです。こんな経験を持っている人は本当に多いのではないでしょうか。

何を隠そう私も30代後半ぐらいまではこんな経験の連続でした。ほぼ8割程度のこんな中間層の人々が実務を取り仕切り、会社を支えています。四方に気兼ねして、明日の準備がいつも気掛かりで気重で時に気弱になる自分に何とか鞭を入れ過重労働もいとわず頑張り続けます。

まるで輪を駆け回るハツカネズミのようです。ハツカネズミは目をじっと前に据え汗をかきながら走り続け、いつまでも頑張り続けます。さすがにぐるぐると走り続けるハツカネズミもある日はっと気が付きます。

これだけ頑張って走って来たけれど同じ所を回り続け何の進歩もなかったと。そして絶望の淵に立たされます。危機の真っただ中にあるハツカネズミ状態の氣に陥ってしまっているのだと。

3.末期状態の氣(ローマ帝国崩壊状態の氣)

気落ち,気が滅入る、意気消沈、嫌気, 無気力, 勝手気儘, 気の毒, 陰気、気を失う、気絶、病気、狂気

終わりの見えない頑張りにも拘らず結果が出ない、変化が起こせないハツカネズミ状態の氣もやがて気落ちして、気が滅入り、ついには意気消沈してしまいます。

何をする気にもなれない無気力状態となり、やけを起こし勝手気儘に行動してしまいます。気の毒なほど顔つきが陰気になり、気絶してついには病気となり更に病気が進行し末期状態の氣です。

こんな氣の状態の人達が構成する組織はローマ帝国崩壊状態の氣の集団となってしまいます。ハツカネズミ状態の氣から悪性の末期状態の氣まで進行してしまった人々や組織は果たして自ら覚醒する事が出来るのでしょうか、はたまた蘇生させる強力な医者やリーダーが現れるのでしょうか。

4.末期状態脱出の氣(立ち向かう氣)

気が付く、正気に戻る、気概を持つ、気構え、気合い、負けん気、意気に感じる、勇気凛々、元気、気迫、意気軒高、元気溌剌、士気高揚、上昇気流、運気

世の中にはローマ帝国崩壊状態に陥った組織が危機状態に対して果敢に立ち向かい見事に蘇ったケースがいくつもあります。組織が蘇り活性化したという事は即ち組織の中の人々が元気を取り戻した事になるのです。

病は気から、気は心とよく言われます。人の心に組み込まれた蓄電池には誰にでも公平にエネルギーの分量が蓄えられているはずです。ちょっとした励ましや小さな成功体験などで俺にも出来ると気付き。変われる自分を発見します。

正気に戻り覚醒した自分を発見します。気概と気構えをもって自分の向かう道をしっかりと定める事ができるようになりました。どんな困難にも打ち勝つ負けん気で一歩踏み出す勇気さえあれば心の蓄電池から思いもかけない程エネルギーが沸々と湧き出す事を感じるでしょう。

人に気迫と元気が蘇り士気が高揚していきます。元気溌剌な人達によって前に向き走り出した組織は見事に蘇生して上昇気流に乗り運気が回って来たのです。末期状態の脱出から立ち向かっていく氣がそこにあったのでした。

5つの氣―経営哲学―

ポジティブな氣は人から人へ繋がりそして組織内において循環します。良い氣が流れ、良い雰囲気が広がり、清冽で活気のある空気が循環していきます。又良い空気が流れている所には更に多くの人が集まり人気が出て上昇気流に乗って景気が良くなりました。ついに運気が巡ってきました。これをポジティブな氣の循環つまり(Circulation of good spirits )と言います。

ポジティブな氣は人から人へ繋がりそして組織内において循環します。良い氣が流れ、良い雰囲気が広がり、清冽で活気のある空気が循環していきます。

又良い空気が流れている所には更に多くの人が集まり人気が出て上昇気流に乗って景気が良くなりました。ついに運気が巡ってきました。これをポジティブな氣の循環つまり(Circulation of good spirits )と言います。

ここまで氣の言葉の持つ意味と人と組織への関わりについて話しをしてきました。気合いだ、気合いだという昔ながらの根性論の純粋体育会系から知的体育会系的に多少インテリジェンスを加えて、次にこの氣の循環理論を用いた組織の活性化及び経営哲学的な話をしていきます。

他国の成功事例を逆輸入するも機能せず

世の中にはあらゆる経営に関するHow-to 物の書籍が氾濫していますが大多数の書籍は所謂アメリカのMBAがらみの経営手法に基いています。特にシックスシグマの経営手法は多くの日本の大企業で採用されています。

シックスシグマは1990年代に米国のモトローラ社が自社製品と日本製品の圧倒的な高品質の差はどこにあるのか、その原因を追究、徹底分析する中で品質の基準、バラつきを100万分の3.4 個(つまり6シグマのバラつき)に抑えるための設計品質、製造工程品質を改善する手法に統計的な数値を用い体系化したものです。

この手法をGE.のジャックウェリチが経営手法として採用しGEの改革に結びついたとされています。基本はもちろん英語表現でDMAIC手法と言います。さらにシックスシグマの特徴としてトップダウン方式で且VOC(Voice of customer)つまり顧客の声を活動起点とする事があります。

  • D(Define, 定義付け)
  • M(Measure,数値的測定)
  • A(Analyze ,分析)
  • I(Improve,改善)
  • C(control 管理)

そんなに難しい事言っていないのですが少し通訳してみましょう。まずはVOCお客様の声を活動起点として活動の課題、その目的、方向性等を定めます。

課題は品質改善に限ったものでなく組織に潜むあらゆる課題(売り上げ、利益率の向上等の具体的な経営数値の改善又は企業内コッミュニケ―ションの向上、若手抜擢などによる活性化、幹部のリーダーシップの向上といった定性的課題)まで多岐に渡って適用されます。課題が摘出されるといよいよDMAIC手法を使い活動が始まります。

  1. D(Define)定義付け:当該課題の具体的表明、課題に挙げた明確な理由、その問題点の摘出、課題の最終的な着地目標の設定。大枠の数値目標と時間軸の設定。
  2. M(Measure)数値的測定:当該課題における各問題点の具体的な数値、過去からの傾向的数値の変動推移、将来における予測数値、他社等との比較数値等の検証作業。
  3. A(Analyze)分析:各問題点における原因究明分析。分析に基いた改善手法の可能性の分析。同様な課題に対する過去の症例又は他社の症例の原因と対策及びその効果分析。第3者を介した別視点からの分析と対策。
  4. I(Improve)改善計画の作成と実践:分析に基き改善計画を作成そして実践
  5. C(Control)管理:実施された改善策の効果を常に見える化しTry and Error を繰り返しながら継続的に管理運営する。

このように日本語で整理すると、なんだ-意外と難しくないよね。自分達もすでに始めているという人が多いと思います。そもそもシックスシグマは日本製品の圧倒的品質の高さに脅威を感じた米国企業が日本のボトムアップ方式のQA活動からヒントを得て生み出した手法であり寧ろ逆輸入されているものです。

米国での成功はあのアメリカ人の持つ個人主義的行動規範を捨て去り日本の共同体的運営の切り札である情報の共有化に一歩踏み出した事にあります。

アメリカや欧州で仕事をしていた時に日本の大部屋で働いていた我々が驚いた事があります。彼らの事務所はすべて個人部屋で仕切りがされ情報は個人の持つ権利や武器として共有されるような状態ではなかった記憶があります。

ここで日本の企業と米国企業の明暗が分かれた原因はトップダウン方式と数値をベースにした具体的な見える化の導入であったと思います。あのGEのジャックウェルチ等の名だたるトップが自ら陣頭指揮を取り明確な方向性を示し具体的な数値と経営手法まで提示した事によりチーム全体が見える形で動き出しました。

しかし日本では残念ながら定着してはいないようです。日本の有名なグローバル企業のある幹部がシックスシグマ信奉者で盛んに普及に努めて各部署にDMAICの導入を実施していましたが期待ほどの成果を上げられずいつの間にかその試みは頓挫してしまいました。

シックスシグマの元祖は日本の経営手法であったものが何故根付く事が出来なかったのでしょうか。一つの大きな要因はトップがシックスシグマの本質を理解せずに他国の成功例に藁をも摑むように意味もなく飛びついた事。

実務を遂行する中間層が英語表現の方式に慣れていなかった、要するにトップも中間層も魂が入っていなかったという事に尽きると思います。英語でDefine だMeasureだの言われてもやる気に火が付きませんよね。

そこである事を思いつきました。そうだ日本人なら誰でも心で理解出来て腑に落ちる表現方法である、あの氣の循環の手法がつかえる。あらゆる氣の言葉から最もポジティブな言葉を選りすぐり体系化しました。それが5つの氣の循環でした。

正気。気概。勇気。根気。運気(5つの氣の循環)

正気(Wake-up)分析

まず全ての起点は正気に戻る事。目覚める事。自分が正気でない事を公言する人はいないでしょう。組織も然りです。しかし実態は自信過剰、過去の成功体験が何時までも継続するという妄信的な正気。

また状況が悪化している事を薄々感じているが現在の状況を否定する事が不安で恐ろしい、現状から目を背け変化を求めない停滞に身を投げ出す事に心の安定を求める無理筋の正気が蔓延しています。

この状態から目覚める為には内部告発であろうが外圧であろうが一つのキッカケをつかんで一度落ち着いて自分自身を又自己の属する組織を敢えて俯瞰してみる事。鳥瞰する事。

今の自分の常識は他人にとって非常識。日本の常識は世界の非常識。現在の強みは将来のアキレス腱、弱点は長所に変わり得る。今日の味方はいずれ明日には自分を襲う敵、敵はいずれ最大の協力者、天国はいずれ地獄、地獄はやり方を変えれば天国に生まれ変わる、と敢えて視点を変えて現在の立ち位置をあらゆる角度から分析。

そして方向性を確認する。そうです正気に立ち返って現状の問題点、改善、改革すべき高い壁等、絡んだ糸を解きほぐすように徹底分析を行うのです。分析の手法は当然ながらあらゆる視点から行い、時には外部からの新鮮な血の導入も厭わず進める事になります。

気概(Ambition)目標設定

正気に立ち戻って徹底分析し自己の立ち位置と行くべき道が明確になれば気概をもって論理的な数値目標を決める。ここで重要な事は達成可能であること。達成までの道筋が過去の症例等で見える事、個人が又は組織にエネルギーが満ち溢れている事。目標設定は気合や情緒を廃し論理的に行われなければなりません。ここで思い出されるのは東芝での不祥事です。チャレンジと称してトップがほぼ不可能な数値目標を押し付け達成できずに社員のエネルギーの低下を招き、ついには粉飾に手を染めていきました。100メートル競走で11秒が自己最高記録の選手に明日の試合で10秒を切る目標設定は出来ません。半年後、1年後の大会までの具体的、論理的な練習メニューを提示して0.1秒単位の目標を設定する事が重要なのです。限界の一歩先、爪の一歩先までを目標とする。

勇気(Courage)行動計画

正気に返って分析し、方向性を確定し、気概をもって設定した目標は当然達成しなければなりません。勇気をもって一歩踏み出すのです。具体的な行動計画の作成と実践です。

行動計画の作成においては綿密なスケジュール、チーム構成、各構成員の役割分担、具体的な項目の明示等を見える化する事は当然必要な事ですが、更にチームの活性化、一体化を鼓舞するメッセージ【One for all, all for oneとか有言実行、少し古くなりますが皇国の興廃この一戦にあり全員一層奮励努力せよ等】を全員に示す事が必要です。さらには象徴的にデザインされた旗印を掲げてお祭り的な結団式等でギアとアクセルを全開してチームのエネルギーを最高レベルまでにあげて行く事が大変重要です。そうです無味乾燥な言葉に魂を入れ込むのです。

根氣(Continuity)継続

一過性の正気、気概、勇気であってはなりません。一過性の勇気は誰にもありますが長続きしません。蛮勇と言います。せっかく正気に戻って自分を変える、組織を変えると心に刻み込んだ挑戦は簡単には諦められない。根気よく継続させる。

個人の挑戦は意識変革そして我慢、辛抱、励ましてくれる仲間や家族の支えという事になりますが、組織の継続は精神論だけでは根氣が継続しません。

作成した行動計画の工程表の継続的な見直し、人事制度の刷新による新たな人材の投入、開発、工場、ネットワークシステム等への必要な再投資等、企業の持っている限りある資源である人、モノ、金を最大限に有効活用する事により永続的で強い体質に作り変えていく根気のいる作業が肝要です。

運氣(Success)結果と成功

正気, 氣概、勇氣、根氣と正しく氣を循環させた先には間違いなく運氣が巡ってきます。結果がついて来るのです。

しかし気を付けなければならないのは、この5つ氣には大きな落とし穴がる事です。5の氣の循環に従い真面目に取り組み根氣の段階までプロセスを進めて継続的に根氣よく活動を進めてきましたが、突然の景気変動、世界情勢の悪化等の外部要因による変化やキーメンバーの流出、内部経営陣の抗争による退陣等の内部要因などにより、起点である正氣が変貌する事があります。起点の変化です。

残念ながら起点に変化があるにも関わらず人や組織は未だに真面目にコツコツと活動に取り組みのめり込んでいきます。正氣でないのに根氣よく疑いもなく一心不乱に又ハツカネズミのように走り続けます。

当然起点が変わっているので行く着く先はとんでもない方向に向かいます。丁度山登りで道を間違えたのにひたすら登り続けた先に全員遭難という悲劇が待っているかのように。

起点は常に変化します。変化を予測し、そして起点に戻り我々は常に正氣であるのか、目覚めているのかを自分自身に厳しく問いかける事がまさしく問われているのでしょう。

三原一郎