有言実行と不言実行

理屈じゃない。根性だ。の高度経済成長期

ひと昔前のビールのコマーシャルで一躍脚光を浴びた言葉があります。侍の風貌を漂わせる世界の三船敏郎が無言でぐいっとビールを飲み干すそしてあの有名なキャッチコピーが飛び出します。―男は黙ってサッポロビール―となります。

日本の高度成長期に会社の為、組織の為に身を粉にして奮闘していた企業戦士の圧倒的な共感を得ていました。上司の枕言葉は常に理屈やできない理由を並べる前にまずやってみろ。言い訳をするな。上司にとって部下に叱咤激励する時の最も便利な言葉が不言実行でした。

しかし同時に当時の多くの日本人の美意識として人前で言ったにも拘らず結果が伴わない事を恥じ、評論家的に発言すると思われる人間を疎んじる傾向もあり、言葉で軽々しく言って物事を進めている人よりも、なんとなく不言実行で何かを成し遂げた人間をかっこいいと共感、称賛する空気感が漂っていたように記憶しています。

平成の時代に入り水泳の北島康介が金メダルを取ると宣言し、チョー気持ちいい―と言って金メダルを取った事などがきっかけとなり不言実行から有言実行がより評価され又企業においてもカルロスゴーンによるコミットメント経営戦略等によりすべての目標が数値化され有言実行型のマネージメントがもてはやされるようになりました。

辞書を見ると有言実行という言葉は存在せずもともと存在していた不言実行から転じて人々の使い勝手により一般に広まった造語だそうです。

造語ついでに不言不実行、有言不実行を加えて少し話を発展させたいと思います。

次の4つに順番をつけてみてください

有言実行、不言実行、有言不実行、不言不実行を並べて貴方の信条、考え方、好みによって順番をつけてくださいと人々に 質問を投げかけてみると:

ほぼ2つのパターンに類型化されます。

  1. 有言実行、不言実行、有言不実行、不言不実行
  2. 不言実行、有言実行、不言不実行、有言不実行。

独断と偏見でそれぞれのパターンを支持する人物像とタイプを仕分けすると:

1のパターンを支持する人即ち有言実行により価値を見出す人は比較的若い年代。数値を重んじる会社の企画、管理系の人、コミュニケーションを重視する人。

2のパターンを支持する人不言実行タイプは昭和の時代に活躍した熟年層。独立志向の強いミドルマネージメント層。自信を内部に秘めるが多少コミュニケーション能力に欠ける人 

 

2つのパターンにほぼ共通しているのは有言不実行(言ってやらない)が人気がないのです、特に不言実行を支持する人は巧言令色少なし仁とか沈黙は金などという諺を信じる類の人で軽々しく話し、実行の伴わない人間を全く評価しないのです。

しかし少し角度変えてみてみると実はこの4文字熟語は実行という言葉に隠された本質があります。

黙ってやるのがいいのか

人が実行するという事は行動を起こす事、同時に組織が行動に移す事。さらに個人と組織がある方向に向かって推進する事であります。方向と目標を決めて、計画と工程表を定め実行に移しそして実現する事に意味があります。

無為無策でただ遮二無二行動をしていては破壊と滅亡に向かっていることになりかねません。

そこで人々に次の質問を投げかけます。

4つのパターンの4文字熟語の最後の言葉の実行をすべて実現に変えてみてもう一度熟考して順番をつけてみてください。

有言実現、不言実現、有言不実現、不言不実現(言って成し遂げた、言わないでも出来た。言ったけれど出来なかった。言わないでやはり出来なかったとなります。)

すると人々にある変化が起こります。さらに畳みかけて次の質問をします。有言とか不言の意味をさらに掘り下げてみるとどんな解釈ができるでしょうかと。

すると殆どの人が答えに窮してしまいます。そこでこのように説明します。

人が言葉を発するという事は何かを表現して説明を加えて人を納得させようとしている事になります。表現とか説明は単に言葉だけではありません。目や態度で相手に意思を伝える事も出来ます。もちろん文字、映像、絵画とかイラスト又は合図等でも表現しています。

そうです。 有言とはあらゆる伝達手段を駆使して見えている事、または意志、感情、情報が共有されている事、即ち見える化されている状態の事を言うのです。

従って逆に不言は相互が理解し得ていない、見えていない。組織内において情報と意志そして方向性、感情による一体感、等が全く共有されていない状況にあるのです。

この2つの説明で変化がすでに現れている人々に確信が生まれてきます。

有言実現が明確に4つの4文字熟語の中でトップとなり不言実現の地位が落ちて有言不実現が2位に踊り出てきたのです。

あるべき姿の有言実現:行く道を定める(方向性の明示)目標を決める(目標設定)計画と工程表を作成する。人々の役目を定め仕事を明確化し時間軸も定める(役割分担)。全員で共有できるツールを作成する(共有化一体感の醸成)

あるべき有言実現を正に実行し、推進すればほぼ8割を超える確率で目標を成就、実現できる事になりますが、よしんば実現できなかった場合(有言不実現)においても不実実現(不言実行)を支持する個人、又は組織に比較して敗者復活戦を勝ち抜くチャンスは数十倍にもなるでしょう。やり直しがきくのです。

共有化された情報,意志、すべてのデータは個人、組織としての自信につながり又財産として積みあがっていくからです。

方向性を持ち目標に推進しても崩壊する組織

不言実現はたまたま幸運が積み重なり実現した。つまり万馬券が当たった様なものです。恐ろしい事はその快感からのめりこんで行き滅亡につながっていきます。不言実現が組織として蔓延すると更に多数の人間を巻き込み人々を奈落の底に突き落とします。

昨今会社、警察、スポーツ団体等の不祥事、隠蔽体質等が世間で取りざたされています。

企業ぐるみ、またはトップの無能、無責任による不祥事は意図的、確信犯的な要素が強く全く論外であり、単にトップの首を挿げ替えるしか解決の方法はありません。

但し90%以上の会社やその他組織はある方向性を持ち、目標をもって推進され、それを支える人たちもその方向性を信頼し、真面目に目標に向かって日々活動をしています。

組織の問題は逆にそこにあるのです。皆真面目に頑張っていますが、組織が有言になっていない中で個人もまた有言ではない事に無意識的に関わっていくことになります。個人と組織は無意識的に浮遊し思わぬ方向に向かっていきます。それでは組織が有言になっているという事はどんな状態を指しているのでしょうか。

  1. 個人と組織を取り巻く環境は常に変化している。
  2. 個人と組織の方向性はその変化を認識し対応している、変化に対応できる柔軟な心と組織体制ができている。
  3. 方向性は正しく設定されているが意志、情報、計画、時間軸、役割分担等を共有化するシステム構築ができているか。
  4. 共有化のシステムができていても、人々がトップと組織に信頼を寄せ前向きに取り組んでいるかモチベーションもって動いているか。
  5. 組織全体が一体感をもって活動しているか。

企業の不祥事で毎回繰り広げられるトップの謝罪会見において一様に見受けられことは:-部下の行動を正しく把握できていなかった。社内の情報共有化のシステムに不備があったなどと責任を実行部隊に転嫁する言葉の羅列。それが又同時に謝罪と責任転嫁を繰り返すトップの無能ぶりを世間にさらす事になっています。まさしく組織における不言実行そのものであります。

不言実行の恐ろしさはまさにここにあります。トップの無能と変化への対応が組織としてできていない状況下において人々は危機が迫りつつあることを感じつつも真面目に不言実行し、実態に目をつぶり又は知る事を抑制されている中で無意識的に突き進んでいきます。むしろ無意識的に突き進んでいく事に心の安定を見出しているかのように。しかし危機が限界点を超え突然に崩壊を目の前で知る羽目になるからです。

戦前の大日本帝国や最近の日本の電機業界の崩壊はこの典型と言えるかもしれません。

たまにはスマホをいじる手を休めてもう一度有言実行と不言実行という4文字熟語をかみしめて考えてみる事も何か興味深い事になるかもしれません。

三原一郎