責任と役割

世の中には『プレイングマネージャー』という言葉があります。

自身で一般社員の業務をしながらチームの管理をする人です。

たいていそういう人は自身の一般社員としての能力が他の人より高いので通常業務も膨大に抱えながらマネジメントもしようとしてパンパンになってしまいます。

そんな時は少し冷静になってこの話を読んでみてください。

みなさん登山というチームスポーツはご存知ですか?

学生時代山登りに没頭していた時期があります。冬山登山を目指して厳ししい活動を行っていました。夏山合宿では2週間で白馬岳から槍ヶ岳、穂高連峰まで縦走も経験。20日分の食料と燃料、そして宿泊用のテントを7名の隊員で一人40キロを超える荷物を分担します。

合宿では3年生の経験豊富なベテランがリーダーとサブリーダーとなり山行計画を作成。1年間の辛い訓練に耐えた2年生が食糧調達、天候予測、ルートの検索及び悪天候、雪崩、滑落等のリスク管理対策等を行いリーダーの最終確認を取ります。新たに入部した新人は専ら炎天下でのマラソンでん体力強化を図る事になります。特に冬山登山は登頂するチャレンジと厳しい自然環境に対するリスク管理能力が同時に試されるスポーツです。

いよいよチームは隊列組んで山行が始まります。隊列の組み方はその責任と役割によって厳しい掟があるのです。トップは1年間の訓練に耐えた生意気盛りの2年生が努めます。その責任と役割は体力を期待してより重い荷物を背負い、ルートを見極めながら登っていく。体力のない1年生部員の消耗度合と登頂までの時間配分を考慮しながら最適のペースを作る。後ろからついていく1年生部員の様子を常にチェックする。

1年生部員は重荷を背負って先輩部員の指示に従いただただ遮二無二ついていく。サブリーダーは更により重い荷物を背負いながら隊列全体をチェエクし隊列の消耗の度合い、天候又登頂までの時間配分等考慮しリーダーに進むべきか一旦休憩し隊列を留めるか、又撤退すべきか等の判断をリーダーに助言する。

リーダーの判断を部員に正確に伝え、ある時は励まし、又撤退と決めた場合には部員に納得のいく説明責任が求められます。そしてリーダーは基本的には最も軽い荷物を背負う。異論があるように思えますがこれには明確な理由があります。当然リーダーは全体の生死に責任をもっています。最も重要な決断を迫られた時に疲労困憊して正常な判断が出来ない状態を最も恐れているのです。

リーダーが疲弊し混乱した状態での判断は隊全体のチャレンジの失敗又最悪の場合は山での事故、隊員の死に直結します。だからリーダーの責任と役割はただ一しかありません。それは登頂というチャレンジとあらゆるリスクを柔軟に考慮し進むか一旦とどまるかはたまた撤退して再起を期すという究極の判断と決断なのです。

山の掟と会社組織

この山の掟は会社組織における社長、役員、中間管理職、そして一般社員の責任と役割そのものです。特にリーダーやサブリーダー役の経営陣は弛まぬ技術革新、経営改革、費用削減等による利益創出、顧客と雇用を守りそして株主に対する貢献を通じて社会貢献を図るという厳しい目的と同時に環境の変貌に備えた全ての危機管理に常に備える同時並行のチャレンジが求められています。

山登りの場合は一歩判断が間違えば死に直結する事を実感する事が出来ますが、安定した状況に甘んじている組織体のリーダーは残念ながら突然に崩壊が起こり得る事を予測できない。想定外の事態が起きてしまったという言い訳けがましいコメントを会見の席上で何度聞いた事でしょう。

サッカーの責任と役割

チームプレイを求められその責任と役割が最も明確に表れるスポーツとしてサッカーがあります。ゴールキーパー、バックス、ミッドフィルダー、そしてフォワードで構成されゲームが進行されていきます。フォワードの役割と責任は明確に点取り屋です。ゴールが奪えなければフォワードは失格となりメンバーから外されてしまいます。企業で言えば営業部長でしょうか。営業部長は常に販売の拡大が求められます。製品又はサービスが顧客に受け入れられなくては会社がそもそも成り立っていきません。

又フォワードとして別の重要な役割として攻めきれない場合に一旦ミッドフィルダーにボールを戻し体制を作り直すという局面があります。営業部長が商品とサービスに問題がある場合にその情報を企画部門又は工場にフィードバックして体制の立て直しを図る事と同様です。そしてミッドフィルダーは大変重要な責任と役割を持っていて通常サーカーのチームでは最もクレーバーで且俊敏な選手が選ばれる事になります。

クレバーなミッドフィルダー

かつての中田英寿、最近では香川真司でしょうか。歴史上の人物では豊臣秀吉の軍師黒田官兵衛、日露戦争での日本海大海戦で東郷平八郎の戦略スタッフであった秋山真之でしょうか。彼らの類まれな才能と戦略眼は国の運命を決める決戦を勝利に導く事になりました。

ミッドフィルダーはゲームを戦略的に展開していく。重要な局面でフォワードにキラーパスを出す。時には自らのドリブルで局面を切り裂き攻撃に参加そして味方が不利な展開では守備に下がり全体を守る。全方位に展開するために神経を常に研ぎ澄ませ彼の目はあたかも前だけでなく後ろにも横についているかのように縦横無尽に活動しているのです。

企業では戦略担当の企画部門又は優秀な社長スタッフといったところでしょうか。所謂起業をしたベンチャー企業では社長自身がミッドフィルダーの役目をこなしているのでしょうが現状の日本の大手企業の中では戦略スタッフといえども中田英寿や香川真司のような活躍は期待できないかもしれません。そもそも出る杭は打たれるような形骸化した組織体系に固執した会社や経営陣の元では人が育たない所に問題があるようです。

サッカーでのバックスは鉄壁の防御態勢の構築が要求されます。バックスの守りが崩されるとゴールキーパーただ一人にチームの運命が任される事になります。マンマークで相手の選手を特定して守る又はゾーンで守り相手側とある一定のスペースを保ちつつ守る等チーム内で決まり事がありバックスとミッドフィルダーが一体となり相手の動きを予測しながら守りを固めていきます。

オウンゴール

チーム内の連携が崩れると防御ラインが破られゴールキーパーを突破されてしまい痛恨の失点を屈してしまいます。最悪のケースは守りの混乱がパニック状態を引き起こしオウンゴールで負けてしまう羽目となります。サッカーでのバックスの役割は企業においては経営分析、工場内の品質管理、そして危機管理、コンプライアンス違反、情報公開等を含め所謂管理部門と最終チエック機関である役員会、監査役会がこの役目を果たすことになります。

最近のメディアを賑わしている組織、団体、企業における突然の経営悪化、パワハラ問題、品質問題、コンプライアンス違反、隠蔽体質などは基本的にすべて企業内の経営陣の予測能力の欠如、無自覚、幹部職員の問題意識の欠如、連携不足、安定した停滞状態による会社全体の空気の淀み、緩みによるものであり他に原因を転嫁できないオウンゴールと言えるでしょう。

サッカー界は厳しい世界でありアジア予選で2度敗戦を屈したハリルボッチ監督は解任されてしまいました。但し問題のあった殆どの組織体ではその会見の席上でリーダーは白髪頭を深く下げながら謝罪の言葉を述べると同時にこの問題は想定外の事でありました。会社の危機管理体制が不十分であったので第三者機関を立ち上げ実態調査と今後の対策を策定し最後まで解決して行く事が私の責任でありますといいながら地位に居座り続けます。

あなたは彼らの責任と役割が分かりますか?

責任と役割に関するちょっと面白い小話を最後にこのエッセイを締めくくりたいと思います。会社の構成員と言えば通常従業員、係長、課長、部長そして社長です。

Q.ここで質問します。この人たちの責任と役割は何でしょうか?

あまり深く考えすぎると答えが見つかりません。ヒントはこの漢字の成り立ちです。従業員の従の字は人偏と足という文字で形成されています。

従業員は足で動き回って実際に実務をこなしていく人。係長の係の字は同じく人偏に系即ち人にかかわっている人。従業員にかかわり指導し共に働く人という事になります。次に課長さんです。課長の課の字は言偏に果たすと書いてあります。課長さんは最も実践的でかつ大事な責任と役目を持っています。そうです目的と手段を言って果たす人です。自ら宣言し実行し、実現させる人です。

だんだんと責任と役割が大きくなってきました部長さんの登場です。部長さんの部の字はよく見てみると立つと口という字で構成されています。この人の役目はもう分かりますね。部員全体の前に立って言葉とメッセージを発信するのです。

立ってしゃべるのですから会社の方針、現状の問題点、改革の必要性、そしてその手段など意味があり人を納得させ、時には奮い立たせるような良い話、役に立つ話しをしなければなりません。ただ意味不明な事をしゃべりまくっていれば良いという話ではありません。部長さんは高給をもらっているのですから当然この程度の仕事が出来なければ明日は左遷の憂き目にあうかもしれません。

そしていよいよ社長です。この字からその責任と役割を想像するのは少々厄介ですが無理筋をとうして私なりの新解釈をしてみます。社長の社の字は神社の社(やしろ)と読みます。そうです社長は社(やしろ)に奉られているのです。

社長がいちいち細かい事に口を挟まないように意図的に 象徴的に棚上げされている場合もありますが、その能力、経験、人格からまさに尊敬されている場合もあります。どちらの場合においても会社で危急存亡の事態が発生した場合に役員クラスや勿論部長連中でも解決できません。一同雁首をそろえて社(やしろ)にお参りして願かけをします。

参拝客の多い神社は当然ご利益が必ずあると信じているのです。

一旦社(やしろ)に持ち込まれ社員全員から願をかけられたら霊験あらたかでなければなりません。霊験あらたかな決断と行動の一点をもってのみ社長の高給の証となっているのです。(カルロスゴーンの高給隠しは論外ですが)そうです社長は最後の一線、砦なのです。霊験あらたかに難題を解決させなければなりません。PK戦になったサッカーでの戦いで神ってるゴール―キーパーが何度も相手のフリーキックを止めまくったように。

三原一郎