壁という言葉で思う事(5つの壁)

アメリカトランプ大統領はアメリカファーストを掲げ、アメリカの国益を守るために様々な壁を築こうとしています。

メキシコからの移民を防ぐ物理的な壁、また特に中西部の傾きかけた企業を守るため膨大な関税の壁をかけようとしています。

1930年台以降に高まった保護主義的な経済体制又は国粋主義的な世界の潮流が第二次世界大戦という未曽有の悲劇を生みました。この反省に基き世界から壁を取り除き国際協調の名の元、自由貿易、国際協調の流れが定着しつつある最中にトランプ大統領という全くの異人種により今又世界に大きな壁が築かれようとしています。

もともと地球は球体で遮る壁があるはずもなく、はるか彼方に見える海の地平線にも壁は存在しませんでした。 

しかし一旦人間が住み着ついた地上では多くの物理的な壁が林立し、人は又観念的な主義主張、哲学、宗教、自由、自立、人間の尊厳、等という目には見えない概念を外部から守る壁を作りだしてきました。

中国にある万里の長城は秦の始皇帝の時代に築かれその後の中国の王朝が北の匈奴からの侵略を防ぐためにさらに拡張。延6000キロの壁を築きました。

ヨーロッパは地続きの広大な土地に文化、言語の異なる小国が群雄割拠し小競り合いと戦争が繰り返され各地に所謂城塞都市の名残が今や美しい町として残されています。

元々人は限りある土地、食料の奪い合いによる争いでしたがすでに確保している取り分を守るために壁を築きました。

しかし食が満たされた後は人間の主義主張、自由の戦い、人間の尊厳等に名を借りた何よりも権力欲という悪魔がさらに高い壁を築く事になり戦いの泥沼にはまり込んでいきました。

ベルリンの壁や南北朝鮮の三八度線はその象徴でしょう。

そうです。一つ目の壁はまず作る壁、そして守る壁です。

作る壁・守る壁

戦いとか主義主張などと大きな話しをしていますが実は我々人間は普通の日常生活でも壁を作り、その壁によりに自己を閉じ込める安住の場所を見つけるという作業を無意識に行っています。

  • 心の壁。心に壁を作り人と外部からの接触を拒絶、安住の地に自己を押し込める。やがて自閉症。
  • 部門の壁。役人の縦割り行政はこの典型。部門の理屈、利益を最優先し横との連携をさげすみ拒む。
  • 親父又は上司の壁なんていうのもあります。

怖い親父(上司)、偉大だと妄信している親父(上司)対して

劣等感と恐怖から萎縮。何も言わない、もめ事を起こしたくないカタツムリ状態となり小さな殻(壁)の中に閉じこもる。 

差別の壁 

難しい問題ですがいろいろあります。差別する側が壁を作り相手を容認しない。差別される側が自己を守るために壁を作り、される側の世界に溶け込む(安住の世界を求める)

そしてここで三番目の壊す壁が出てきます。

心の壁、部門の壁、親父(上司)差別の壁を勇気をもってぶち壊すのです。心の壁を壊し勇気をもってまず一言を発してみる。案外人は優しかったり、理解を示してくれ意外な発見があるかもしれません。親父(上司)の壁もぶつかってみなければ道は開けません。

部門の壁。これが組織を疲弊させ、組織運営が麻痺状態に陥る元凶です。差別の壁。差別の壁は新たな法律で規制し差別を撤廃する事で一定程度の進展はありますが、そう簡単ではありません。それは人の心に巣くっている病魔。

私はあいつよりちょっとはましだ。と思う心が人の心の安寧につながっているからです。まずは相手の痛みを理解する。自己への妄信、こだわりを捨てることからはじめるしかないのでしょうか。

少し話が多少ネガティブになってきましたが、四つ目の壁と五つ目の壁は超ポジティブな壁です。

挑む壁、そして超える壁

沢山のエネルギーに満ち溢れた人々が壁に挑み高い壁を越えてきました。世界にはあらゆる挑戦者が現れその苦難に満ちた道のりそして美しいストーリーがあります。その中で私の好きな伊能忠親の話をしたいと思います。

伊能忠敬は江戸時代に一七年かけて日本の地図を作成しました。現在の千葉県佐原市で商売を営んでいた忠敬は49歳で家督を長男に譲り単身江戸に出て暦学の勉強にチャレンジします(四九歳ですよ。。そんな勇気ありますか。。。)

55歳になり現在の北海道の蝦夷地に第一次測量を開始。測量器具等ない時代に人間の歩幅(約70㎝)を基礎にして一日40キロを走破しそのデータを基に地図を作製していきました。歩いた総距離は実に地球1周分。

17年の歳月を要しました。

その地図の正確性は有名なドイツ人医師が日本滞在中に国外に持ち去ろうする事件(シーボルト事件)が起きるほど正確で当時の幕府の国防上の秘図とされていました。

一介の佐原の商人が49歳で覚醒し暦学という新たな壁に挑戦し長い準備期間を経て55歳で実行に移し17年そして地球1周分の距離を走破したというこれまた想像を絶する苦難の道の末ついに壁を越えたのでした。その心意気に大拍手です。

人は大きな壁の前に立つと何かアドレナリンがわきだしとてつもないエネルギーを生み出すものですね。

さーネガティブな壁を壊し偉大壁に挑戦し、そしてそれを超えていきましょう。

三原一郎