独りよがりの自己満足では相手に100%理解されない。

話しが伝わらないのは100%自分が悪い。自信過剰で傲慢になった自分、自信喪失で弱い自分を見せたくない自分、感情を抑えきれない自分、相手が見えない、見たくない自分がいます。

そんな様々な状況に置かれた人達が言葉と(目は口ほどに物を言う)で代表される非言語媒体をとうして日々コミュニケーションをしています。こんな人達の話は100%相手に理解されません。

その原因が自分自身にある事を全く気付いていない寧ろ気付いてもらう必要がないのです。相手の理解が自分の優位性の保持という自己満足の妨げになるからなのでしょう。

自信過剰、知ったかぶりの外国語コミュニケーション

これは世界的規模でビジネスを展開しているある有名企業での会議における自称MBA卒の深い意味も分からずにやたらと英語交じり言葉を使いたがる外国かぶれした部長の話です。

今後ビジネスを拡大する為には我が社の持っているテクノロジーのコアコンピタンスを更にブラッシュアップしイノベーションを加速させコンペティティブなプロダクツを世の中に送り出す。そのためにSWAT分析の後PDCAを回す作業を行ってくれ。

その際必ずボトルネックがあるのでその点は十分に考慮しなさい。当然ながら全ての作業はKPIを使って全員がシェアーできる状態にする必要がある。これをボトムアップで行うがしっかりとエスカレーションして欲しい。

この事業は他社とのアライアンスも必要でOEM,メーカーとタイアップしながらコンプライアンスを十分に考慮しWIN-WINの関係を築く。商品化のプロセスでは 当然QA 、CSには万全の体制をとってくれ。

フレキシブルなSCMの体制の構築も課題だ。今後プロジェクトを立ち上げタスクフォースを作る。プロジェクトリーダーをアサインする。各リーダーはマネージメントがマイルストーンとしてQBRを実施してP/LとROIを評価していく席上でプレゼンしてください。

このプロジェクトの成功がシナジーエフェクトを起こし必ずCSRの高い評価に繋がるのでみんな頑張ってくれ。

この多少軽薄な部長さんの話を100%理解した人はおそらくいないでしょう。通訳が必要です。私が通訳を買って出てみましょう。

我が社が今後事業を拡大するためには我が社独自の圧倒的技術基盤を更に磨きをかけ、進化させた技術革新を行い競争力のある商品を世に送り出す必要があります。

企画部、開発部隊、販売部門の総力を挙げ全社一丸となって取り組んでいきたい。(コアコンピタンス、ブラッシュアップ、イノベーション、コンペティティブ)。

本事業計画に当たっては下記項目を考慮して進めて行きたいと考えているのでしっかりと聞いて全員協力して進めてください。

  • まずは我が社技術の強み、弱み、その技術的強みを生かせる商品の在り方又は最適市場の分析、技術的弱みが生み出す問題点の事前把握その防御策の検討。(SWOT分析)
  • この検討が完了した時点で計画の作成、行動計画、その評価、そして実行。この作業を繰り返し行う事で計画と行動の精度が上げていく。(PDCA サイクル)
  • しかし必ず何かの問題点や難題にぶつかる。その時には落ち着いて障害となっている問題の根源を突き止める根気のいる作業が必要である。(ボトルネック)
  • 全ての作業には必ず目標値、工程表、時間軸、などの具体的数値を明示して全員で共有する事。(KPI)作業は上からの指示でなく皆さんが主体的に行ってもらう事になるが当然逐次報告を上げてもらいたい(ボトムアップ、エスカレーション)
  • 商品化後の製造段階では協力会社に委託生産する事になるが、他社との連携では特に法令遵守の原則に沿って間違いのないように行動してほしい。協力会社との協業は両社にとって常に利益となるような運用をすることで継続的な関係を構築する。(アライアンス、OEM, コンプライアンス、WIN-WIN)
  • 製造工程と商品の物流においても常に柔軟な思考で品質とコストがバランスとれた指導を協力会社に行ってもらいたい。(フレキシブル、SCM) 
  • 当然言うまでもないが商品を使っていただくお客様に喜んでいただく事が我々の使命であるので品質保証には万全の体制で臨んで貰いたい。(CS, QA)
  • 以上の項目を今後作業部会として編成する。(タスクフォース)それぞれ責任者を指名する。今後一定の時期を見計らって4半期毎に事業検討会を行う事にする。(マイルスストーン、QBR、アサイン)責任者に成果発表をしてもらう。(プレゼン)
  • 責任者は当然の事ながら本事業の損益、投資回収等最も重要な事項についても同時に発表してもらう事になる。(P/L, ROI)。
  • この事業の成否が今後の我が社の将来に多大な影響を及ぼし大きな相乗効果となり我が社が今後顧客、株主、雇用の安定という社会的責任を果たす起爆剤となる事を確信しています。(シナジーエフェクト、CSR)。皆さんの健闘を期待しています。

部長さんの通訳は手間がかかりました。倍の時間を要しています。本来なら部長さんの話しの内容は非常に意味が深く且経営の知見と経験に裏打ちされていなければ人を納得させ動かす事が出来ませんが、書店で立ち読み読みした数多の経営How-to 本から俄か仕立てで仕入れた横文字を自慢げに使っても話しが伝わらないのです。伝わらないのは、部長さん貴方が100%悪いのです。

専門分野への自信過剰。知ったかぶり専門用語連発コミュニケーション

これはある経営のプロA氏が技術を誇るB株式会社という中小企業の再建のため乗り込んだ時の話です。A氏は手始めに幹部との面談を行いました。A氏は営業や企画畑出身で海外子会社の社長等を歴任した人物でした。

特に消費者の動向や時代を先読みした商品企画等には精通していましたが技術に関しては全くの素人でしたが技術陣との深い信頼関係を構築しながら理解度を深めていくタイプでした。

時代はパソコンの小型化、薄型化が叫ばれていた時代で最重要部材としての液晶パネルの薄型化、高輝度化が求められている中でB社はエッジライト方式のLEDバックライトを業界に先駆けて開発し量産体制に入っていました。

当然普及速度も速く競合他社の出現で過当競争が加速による価格下落もあり忽ち経営難に陥ってしまいました。何故技術を誇る会社が経営難に陥ったのかを探るべくまずは技術陣の幹部からの面談を開始しました。

A氏は残念ながらバックライトそのものの理解が不足していたので面談はそのあたりの質問から始まりました。

当社のバックライトの強みは何ですか。すると技術者は待ってましたとばかりに滔々とバックライト技術の詳細をあらゆる専門用語を羅列しつつ延々20分語り始めました。

A氏にとって理解困難な話しをよく聞いている素振りをみせながらもその技術者の緊張した表情やA氏に対する多少侮り交じりの挑戦的な態度等をじっくりと観察しながら彼の内面の思いやこだわり等に思いをはせていました。A 氏は彼らの思いを次のように想像しました。

技術に対する素人の門外漢がうちの会社の社長なんてとんでもない、ちょっと難しい話しをして困らしてみよう。いや待てよ。やはり社長になる人だからこの際俺の技術に対する知識と経験と強い思いをここで売り込んでいたほうがいいかも。

こんな事を思いながら彼に十分に気持ちよく話させた後ゆっくりと一言。

申し訳ないけれども貴方の話は全く理解できなかったよ。私は営業出身で昨日からこの会社に来たばかりです。こんな私が貴方の話を聞いて100%理解したら貴方のこれまでの20年ぐらいの血のにじむ努力は何だったという事になるよね。

そんな貴重で価値のある事をたった20分で理解できたなんて申し訳なくて言えないよ。これで彼の肩の力が抜けてほぼ対等に話せる状況になりました。そこで、それでは私の質問に答えながら話して下さいと言って自分のペースに巻き込みながら話しを進めて行きました。

そもそもバックライトは何に使われているのですか。アーそうですか液晶パネルですね。液晶パネルは自発光デバイスでないのでバックライトが後ろから当てて光を出す仕組みになっているのですね。

液晶パネルでも大型のテレビ用かパソコンや携帯等の中小型がありますがどちらですか。そうですか中小型用ですか。

パソコンは最近争が激しく傾向として小型軽量で薄型化に向かっていますが当社のバックライトはどのように対応しているのですか。

アーそうですか導光板を開発してエッジライト方式でLEDを使用する事により可能なのですか。

液晶パネルは少し薄暗く、斜めにから見るとよく見えないという評判がありますがどのように対応しているのですか。導光板の金型に細かい穴を掘りエッジにある光源のLEDの近くの反射ドット(穴)を小さく掘り光源から遠く離れる程面積を大きくする事により光を効率よく配置し視野角もよくしているのですね。成る程。

最近はパソコンも価格下落していますが、顧客のパネルメーカーからの価格要求が強くなっていますが対応できていますか。

この辺から彼の様子が変わり自信喪失状態となりまともな答えが出来なくなりました。彼の専門外の領域には知識もなく俺の仕事でない。誰かがやるだろう

と思っていたのでしょう。しかし彼の高い技術力はお客さんが最終的に評価をしてくれ、技術も時代の流れで陳腐化していた事には気が付いていなかったようです。

どんな高い技術でも顧客の要望する価格と必要な数量を必要な時に供給できなければ買ってもらえません。当然価格は量産する事により必要な部材を廉価で安定的に調達でき且量産のための生産革新をすれば量産効果によるコストダウンに結びつきます。

コストは会社全体の投資コスト、間接コスト等も考慮した総合的な判断が必要です。技術至上主義そのものは良いのですが残念ながら顧客目線からの総合的な経営視点を欠いた過度に技術優先に舵を切られた片肺飛行の会社だったのです。

技術を誇り技術に胡坐をかき、やたら専門用語を使いたがるこの技術者の話は結局伝わらのです。伝わらないのは自分100%自分が悪いのです。

易しい話を難しく話すのは非常にた易い事ですが、難しい話しを易しく話す事はとても難しい事なのです。

自信喪失気味でやたら曖昧表現を繰り返すコミュニケーション

日本人と西洋人には言語表現に明らかに違いがあると言われます。農業社会を基盤とした歴史から醸成された日本人の言語表現は共同体の一員として村八分的な扱いを受けない事即ち共存が最も重要でした。

その為その行動規範、言語表現、その他の非言語表現(目つき、仕草)において相手の気持ちを十分配慮しその場の空気をさりげなく読みながら気まずい雰囲気を作らない、諍いや争いを起こさないように暮らしてきました。

島国で農業社会であった日本人のある意味賢い生き方でした。こんな曖昧表現は現在でも日々の生活を諍いもなく円滑に穏やかに過ごす日本人の知恵として十分に誇れる文化の一つであると思います。

しかし一歩社会に踏み出し特に規律や交渉、契約等を基盤とした競争原理が働いているビジネスの世界では曖昧表現は非常に厄介です。

ある気の弱いコンビニ店長のC君が本部のD上司の指示に答え曖昧表現を繰り返し非生産的で終わりのないコミュニケ―ションの一幕です。D上司からの指示内容は:15%増の販売拡大をする為。

  1. 具体的な数値目標
  2. 具体的な施策(顧客開拓、品揃えの拡大、販売促進策の提案)
  3. チーム力の活性化、3自己変革の為行動計画。
  4. 2週間以内に報告する事。

でした。その2週間たった当日いよいよ気の弱いC君の心に重くのしかかっていた運命の当日がやってきました。

D上司:先週の月曜日に指示をした案件について報告してくれ。今日は提出日だ。出来ているな。それでは報告してくれ。

C君:(事前に用意した50枚以上のプレゼン資料と話す手順を書いたメモ帖を見ながら)アーはい。何とか、とりあえずまとめました。(上司を上目使いでのぞきながら)特に自己変革のところは難しくて準備に時間がかかりました。それでは初めていいですか。

D上司:余分な事は謂わなくていいから早く始めなさい。

C君:アーはい。分かりました。では始めます。

C君緊張しまくり、汗をかきながら話し始めます。プレゼンの資料は文字の羅列で上司は皆目理解できず、手元のメモ帳を見ながら話しているのでプレゼン資料の順番と話しが時に一致せず益々焦りが高じたC君。

報告は基本的に具体性に欠け

  1. 目標値は:明示せず努力します、頑張ります。
  2. 施策については顧客開拓:なるべく多くのお客様に来てもらえるような雰囲気作りをします。
  3. 品揃え:なるべくお客様が喜んでもらえるような商品をこれからチームの中で考えていきます。
  4. 自己改革:今までの自分はやる気はあるのですが表面に出していなかったので上司に分かってもらえませんでした。これからもっとやる気を前面に出して頑張ります。

ほぼこんな内容を延々と30分かけて漸く報告が終わりました。

D上司:君は一体何が言いたかったのか全く理解できなかったよ。

C君:下を向きながら。そうですか。私なり一生懸命やったつもりですが。

D上司:後1週間時間を与えるので再度報告をしなさい。

C君:アーはい。それでは何とかもう一度とりあえず又頑張ってみます。

D上司:呆れながら。C君貴方の言葉は曖昧語の羅列だね。何を言いたいのかさっぱり分からなかった。何とか、とりあえず頑張ってみますと言う曖昧表現の羅列だったね。頑張るなんて誰でも言えます。いつまでどのように頑張るのですか。

私はあまり英語を使いたくないが(実はD上司は英語が非常に堪能ですが)英語のいいところは主語と動詞と述語が明確で私は何を何時までにどのように行動して完遂します。と表現する。相手はそれにより明確に個人の意思を理解する。

4W1Hが常に明確だ。誰が何時までに何処で誰とどの様に。この手法はすべてに適用できる。次の報告はあなた自身の意思で全ての項目で誰が何時までに何処で、誰と,どの様に行動するかを明確にして報告書を作成してください。

自信を失いがちなC君、誰にでもありがちな事です。しかし相手が理解してくれないのは結局貴方自身が悪いのです。

基本的には部下思いの優しいD上司が自信を失いかけているC君を励ましながら思いがけない言葉をかけました。自分に自信を持つ事はそんなに簡単な事ではないし若い頃の私を思い出すよ。自信の無い貴方は少し自己中になっても良いんじゃないか。

相手を思いやり空気を読むのも大事ですが相手から理解を得る事が出来るような自分である事を大切にしてまずは主語から話しを始めてみなさい。俺は。次に動詞をはっきと叫んでみなさい。実行するのだ、最後にもう一つ大事な事を付け加えるのを忘れるなよ。何をどうやって誰と。

そうです。Yes I can do itと叫べば心の底から力がわいてくるよ。頑張りなさい。(この頑張りなさいは励ましの言葉)

Yes, I can do it. You can do it.

三原一郎