黒沢明監督映画『天国と地獄』に思う事

自身が中心やリーダーとなり、組織を動かしていると一緒に働いているメンバーはまだ気づいていないけれど、自分だけは危機感を感じる場面があると思います。

今すぐ何とかしないといけないが、ただ伝えたとしてもみんなは本気で動いてなんかくれないなあ。。。

今回は実際に私がそうした場面に直面した際のお話をします。

 

黒澤映画『天国と地獄』

日本映画界の巨匠黒沢明監督の映画に天国と地獄という作品があります。高等教育を受けながらも貧困のドン底からはい出せない若いインターン竹内が一本に道を隔てた豪邸の主である会社役員権藤に対し謂れのない一方的な憎悪を募らせ子供の誘拐という犯行に至る。逮捕されたのち死刑が確定される。

竹内の要望により権藤と面会するが。ガラス一枚を隔てた権藤に対し–天国のような権藤邸を道路一本隔てた地獄のような環境で俺はずっと嫉妬の暗闇から抜け出せなかった—と絶叫する。刑務官に取り押さえられ無情にもシャッターが下ろされる。

人の人生や組織の運営、また歴史上の事件においても何か目に見えない神のいたずらで運命が180度変わっていく事が良くあります。

『ドーハの悲劇』

サッカーワールドカップ予選ではあのドーハの悲劇がありました。初めてのワールドカップ出場をかけたイラク戦で2-1の勝利目前ほぼ天国の入り口まで到達するまさにロスタイムに失点。三途の川の入り口に逆戻りして地獄に落ちました。まさに天国と地獄は紙一重でした。

天国と地獄を分ける分水嶺はあるのでしょうか。やはり神のみぞ知る。又は運を天に任せるのか。自分の人生や又会社の経営等はやはりそういうわけにはいかないですね。何とか地獄から這い上がるべく手を打つし又天国にいる場合は石にかじりついてでもへばりついていたいものですね。

私が経験した『天国と地獄』

私には天国と地獄に関する興味深い経験があります。少しこの話をしてみましょう。

昭和から平成に移行した2000年代の初頭私はイギリス人を主体としたビジネス部隊を率いロンドン近郊に駐在していました。誇り高いイギリス人を統括しビジネスを展開するためには当然の事ながら彼らの信頼を得る事が最重要課題でした。

幸運にも着任から1年あまりは順調にビジネスが推移、順風満帆まさにHeaven(天国)状況でした。その時でした。2000年初頭に米国発I/Tバブルがはじけたのでした。

イギリスでのビジネスはDell/HP/Apple などにソニーのディスプレイモニター販売。ソニーのDisplay は解像度が優れPCモニターとして高い評価を受け絶好調のピークにありました。I/Tバブルがはじけた事に追い打ちをかけるようにディスプレイ業界を揺るがす当時としての技術革新すなわち液晶ディスプレイ―の登場、そして業界に浸透していきました。

残念ながらソニーは遅れをとっていたのです。イギリス人のスタッフは状況を把握しつつも(この辺は国が変わっても人が変わっても人間の心模様は変わらない)希望的な観測、または変わることを躊躇、むしろ否定したいという心情的な作用が働きむしろ現状の又は目先の仕事をきっちりと真面目にこなす作業に没頭していきます。人は何かに没頭する事で将来起こりうる不安又は恐怖を一時的に忘れ去ることにより意図的に打ち消そうとします。

天国と地獄の隔たりを超えるリーダーシップ

私はこの予測される危機的状況を現状に甘んじている彼らに困難な状況を理解してもらい新たな方向を定め勇気をもって組織全体で行動を開始させる事を指し示す必要に迫られていました。

しかしあの誇り高いイギリス人の理解を得て且彼らが心底から納得し自ら行動を起こすためのコミュニケーションの知恵は何か。

考えた末の結論は:

  1. 誰もが行う思考停止状態的単純な上から目線の叱咤激励をしない事。
  2. 自ら奮い立ち行動を起こさせる事。即ち聞き手の想像力に期待する。イマジネーションを膨らませ納得した聞き手が自ら主体的に当事者能力を発揮するように期待する。
  3. 聞き手を信頼している全面的に任せていると認識させる。

という事にしたのです。

誰もが良くやる手の上から目線からの単純な叱咤激励口調とは。(状況が変わった、今こそ全員が心を一つにして困難に立ち向かえと繰り返し心のこもろない話をする。)

当時本社から偉い人が、今こそ販売拡大、経費削減等とあまりうまくない英語で壇上から演説を垂れるのですがイギリス人は聞き飽きていて殆ど聞いていない。後部の座席では居眠りを初めている者もいた。

通常多くの時間を費やしてCommunication をとっている日本人でさえ相手を納得させ行動に向かわせるのは至難の業であるのに、 ましてや生まれ育ちが違い文化も違い基本的な思考法が異なりさらに誇り高いイギリス人へ上から目線の叱咤激励口調は通用しないばかりかむしろ反発を招きかねない。 

ここであの天国と地獄のストーリーを発信し発動したのです。 

ストーリーの基本:

  1. イギリス人にとって興味がわく話しである事
  2. イギリス人にとってポピュラーな日本の話題である事
  3. ふつうの上司がまずやらない話しである事
  4. ビジネスに直接関係していないが間接的に何かを示唆する事
  5. 話し手(自分)が良く知って得意な領域である事

天国と地獄はまさにこの条件にピタリと合致していました。

黒澤明を知らないイギリス人はいないし天国と地獄という発想は世界共通。緊急時にこんな間の抜けた話をする日本人やイギリスはまず存在しないでしょう。この話は私の得意分野であり下手な英語でも多分うまく話せる自信があった。さー始まりました。

世界的な著名日本人映画監督の作品に天国と地獄という映画があります(Heaven and Hell story)ひととうりあらすじを紹介した後話しを切り替えこのように展開していきます。

Heaven and Hell を分けている分水嶺があります。日本には又バカと天才は紙一重という話もあり天国と地獄はまさに紙一重です。

日本の家屋は木と紙でできていますが部屋を分けているのはわずか障子という薄い紙一枚です。Heaven and Hell is separated by just one piece of thin paper. 一枚の紙を隔ててこの部屋では晴れがましい結婚式が執り行われ正に天国にいるような幸福な時を過ごしています。一枚の紙に穴をあけて隣の部屋をのぞくと皆泣き崩れています。亡くなった人の葬式を営んでいました。(これは地獄とは言えませんが悲しみに打ちひしがれています。)

ここでイギリス人ははたと気付きました。今は好調なビジネスが環境の大きな変化で明日はどん底に落ちるかもしれない。今こそ出来る準備を早急に進める必要があると。又逆にHell の状況下に置かれても自分たちがVision(目標)を正しく持ちWill(意志)を強く持てば又天国への道が開けると。

People in the Heaven suddenly would go to the Hell without any notice or People in the Hell maybe would fall into the Heaven with your great efforts 

その後その組織ではいつもHeaven and Hellは常に触覚を磨きすまし予測を正しく行う事、荒天準備をする事、変化に柔軟に対応する事.勇気をもって果断に行動する事の同義語として組織の共通語となりました。

因みにこの組織で私の良き理解者で先頭に立ったイギリス人は後に欧州全体のこのビジネスのトップたちそしてついに米国のソニービジネスのトップまで上り詰めました。

私が欧州を去る時に彼が出してくれたメイルがあります。多少面はゆい思いもありますがどれだけイギリス人が日本の大企業の社員らしくない一風変わった日本人のこのようなCommunicationの方法とアプローチに理解を示し動機付けされ、啓発(Inspire)され行動していたかを示す資料として皆さんに見て頂ければ幸いです。

Dear Mihara san

Just few words from me.

It has been a real honour and great pleasure to have had the opportunity to work with for you over the last three years.

You have inspired me, educated me on a daily basis, motivated me and I have learnt so much from you in this short period.

I deeply respect you (as does everyone who has worked with you and for you in CNCE and Europe) for your leadership qualities and ability to smell the direction and way forward. 

For me it was really clear that whilst in Europe you worked for the benefit of Europe and most importantly for the people’s benefit.

My only regret is that you now leave us and did hope that we could have worked together much longer time.

It is really a loss for all of us in Europe that you and now returning to Japan.

I just wanted to state how much I have appreciated working for you and I promise to have the view of an Eagle and keep the spirit you have distilled in me.

With many thanks for all you have done to help me.

Phil

三原一郎