大阪なおみの我慢

テニスの大阪なおみ選手が全米オープンでセリーナウィリアムスを破り日本人初のテニスのメジャー大会制覇の偉業を成し遂げました。

試合後のインタビューで勝利した一番の要因を聞かれ飛び出した言葉が(Patience)でした。大阪なおみは 日本人のインタビューアーに日本語訳を聞いていましたが、その答えが日本人好みの(我慢)という言葉でした。

日本社会における「我慢」と「辛抱」

我慢という言葉は本当に日本人が好きな言葉で特に親とか会社の上司が適格な指示、指導ができない場合の最後の決め台詞になります。とにかく我慢しなさいと。またスポ根もののアニメや漫画によく出てきます。我慢だー、根性だ―と。日本人好みの言葉ですが多少ネガティブな意味合もあり行きつくところがパワハラで、実はあまりお勧めできる言葉ではありません。

我慢の語源は仏教用語の自分に執着する事から起こる慢心を意味し高慢,驕りと同義語であった由。それが意味を転じて我を張る、強情に変わりさらに強情な態度を何しろ貫き、押し切る様が我慢と言われるようになったと言われています。

おそらく大阪なおみさんには辛抱と訳してあげたほうが大阪さんの正しい日本語の勉強になったと思います。

それでは辛抱と我慢の違いは何か。

我慢は一時の我慢、とりあえず嵐が過ぎ去るのを待つ、やり過ごす、雨風をよけるためにコンビニで安いビニール傘を買うみたいな感じですね。我慢は結局長く続かない。使い物にならない我慢は安易な諦めに変わり果てます。さらに我慢が多少ネガティブな印象を与えるのは親や上司が我慢を強いるような物言いで迫ると受けた側がつらい気持ちや状態を内部に押し込め、精神的な鬱や、引きこもり、又逆切れ状態となりネガティブというより危険な状態になりそうです。

一方辛抱はかなり昔の朝ドラの(おしん)のように長いつらい状態を耐え忍ぶ。逃げない、強い心を表しています。

辛抱も仏教用語の心法を語源として心の法つまり人の生き方、考え方、または高い志。心法をもってどんな艱難辛苦に耐える心の在り様が辛抱の持つ深い意味でしょう。

我慢、辛抱が耐えるという日本語となると更に意義深いものになります。耐える。迫害に耐える、激痛に耐える、風雪に耐える。猛攻に耐える。ここには 成功、勝利又は自分に打ち勝つ(克己)事にかすかな望みを託しあらゆる困難を耐え忍ぶ崇高な人としての心の在り様と言えるでしょう。さらに耐え忍びながら成功、勝利に向かって対策を打つ。耐震構造、耐熱設計等がそうです。大阪なおみ選手もセリーナの猛烈な攻撃をかわし辛抱しながら相手の動きを見ながら一瞬のチャンス逃さず鮮やかショットを決めました。

そうです。大阪なおみ選手は勝利への執念を持ち辛抱し相手の猛攻に耐えつつ相手の動きを観察し一瞬の機会を辛抱強く待つ事を覚えこれが今回の劇的で世界を驚愕させた勝利に導いた原因だったと

インタビューで答えたかったのでしょう。

歴史上の辛抱人

1. 徳川家康

辛抱にまつわる歴史上の人物で最も有名なのがあの徳川家康です。勿論徳川家康の人物像は日本人ならば誰もが教科書で習ってよく知っているでしょう。長い人質生活、信長、秀吉への終わりの見えない苦難の連続そして従順ののち齢50歳を過ぎて江戸幕府を開き日本の安定した基盤を作り上げた苦労人です。その家康は 名言を残しています。

3つの名言:

●戦いでは強いものが勝つ。辛抱の強い者が。

●鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス。

●願いが正しければ時至れば必ず成就する。

●われ志得ざる時忍耐この二文字を守れり。われ志を得んとする時大胆不敵この四文字を守れり。われ志を得てのち油断大敵この四文字を守れり。

2. 広田弘毅

更に歴史上の人物で辛抱の末総理大臣になった広田弘毅。広田は戦中の総理大臣で戦争責任を問われ巣鴨拘置所の国際軍事裁判で処刑された人物であるが作家城山三郎作による落日燃ゆという小説の中では弁明を一切せずに責任を全うした高潔な人物像として描かれています。その広田は若かりし頃外交官として高い志を持ち雄飛を夢見ていた。当時は米国、ドイツ、イギリス、ドイツ、等が花形外交官の出世街道として派遣される超大国であった。しかし広田の意に反し派遣された国はオランダでした。国の重要事項を任せられることもなく若い広田は鬱鬱とした日々を送っていた。ある日気晴らしにオランダの運河沿いにある土手に腰を掛けオランダの風車を何気なく眺めていると突然さーっと風が吹き、止まっていた風車が回りだしました。

それを見て広田は自分の人生を次の短歌で思い直す事になりました。

●風車風の吹くまで昼寝かな

風車は風が吹くと動きだすさらに強い風が吹くと回り続ける。そうだ自分にはまだ風が吹いていない。こういう時に鬱鬱として時間を無駄にすごすより、こういう時にこそ一度昼寝でもして心を落ち着け風が吹き出すときに備え心と勉学、知恵さらに体力を蓄える時だ。

と強い覚悟を決めた瞬間でした。

人にはつらい、困難な時期があり、会社の運営も実は同様な状況に陥ることがあります。そんな時は我慢ではなく心法(高い志、哲学、目標、ビジョン)に則り辛抱し必ず来る風は吹く、チャンスは来ると信じあらゆる準備を怠りなく行い、そして一瞬のチャンスを一瞬でつかみ取る大胆不敵な勇気と行動力が求められています。何よりもまずは耐える力を養う努力が求められるのでしょう。

三原一郎